『札束〜刺激との代償〜』黒川洸太郎−ショート小説コンテスト②−

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『札束〜刺激との代償〜』

夏の夜はブルーハーツを唄いたくなる。そんなどうでもいい話を僕はしているが、幸雄はいつも通り聞いてるのか聞いてないのか分からない表情だった。長い夜の長い一本道の下り坂をゆっくり歩いていた。

幸雄が満を持して言った言葉から全ては始まった。
「あっちゃいけない金ってのが世の中にはあると思うか?」
昔から良くない話をするときは省略して話す癖がある。幸雄とは中学からの親友だ。
「なにかしらあるんじゃねぇの。昔どっかの竹やぶで一億円見つかったこともあっただろ。」
「なんだその面白い昔話は?」少し笑った。
「脱税とか闇金とか、そうゆう金だった気がするぜ。それがなんだよ?」
「存在しちゃいけない金・・・」
「なんだよ。」
「例えば、例えばの話なんだけどよ。『どっかのエリートが何かしらの事情で4億円を処分したくて、40万ずつ1000人、しかも全国に配布する計画』なんてのは信じられるか?」
街灯の灯りに照らされた幸雄の影はゆらゆらと不安げだ。
「その金は市場に出たり、銀行に振り込んだ時点で身元が分かる金なんだ。ただ全国に散らばった1000人を警察は捕まえられない。そんな話らしい。」
「例えばじゃねぇのかよ。」
「明日N市のナンバーロッカーにそのスーツケースが入る。その中から40万とってB市のナンバーロッカーに入れる。それだけだ。」
「ちょちょちょっと。飛ばしすぎだろ。まずなんでお前がその役目なんだよ。もう1つ気になるのはナンバーロッカーの解除キーを知ってるのか?」
不安もあったが好奇心の方が強かった。暇で仕方ない大学生活の中で、自分より楽しそうな奴ばかりを卑下してる毎日だった。
「ナンバーはロッカーの隙間に紙が挟まってるらしい。行かないとあるかどうかも分からない。なんで俺かは、、、」
幸雄は言いづらそうに下を向く。
「すまん。言えない。言ったらダメなんだ。お前に言ったのは、俺が不安だったからなんだ。明日俺はその金を取りに行こうと思う。ただ、なんていうか、お前に聞いて欲しかったんだ。」
俺はなんだか恥ずかしかった。一緒にいこうという誘いの言葉を白けた顔して待っていたんだ。
「やばくないのか?何時に行くんだよ?俺もついてこうか?」
遂に出た俺の情けなく恥ずかしい提案に幸雄はのらなかった。
「お前には迷惑かけたくない。ありがとう。ただ不安だっただけなんだ。聞いてくれてサンキューな!」

−15年後−
「お父さん広辞苑ある?」嫁が言った。
子どもに辞書をひかせる勉強だそうだ。一番下の引き出しにある広辞苑。その広辞苑の下には、あの頃の40万があった。
あれから俺は大学に行かなかった。幸雄に会わせる顔が無かった。ただ、この札束を使うと幸雄に良くないことが起こるかもと思って、結局今まで使わずに引き出しに眠っている。
胸をギュッと締め付けられるような物体を、自分が自分で創ってしまった。
刺激の代償は友達だった。40万なんてただの札束だった。

〜黒川洸太郎〜

ショート小説コンテスト

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