『札束〜正しい使い方〜』白川湊太郎−ショート小説コンテスト②−

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『札束〜正しい使い方〜』

目を開けても辺りは薄暗くてほとんど何も見えなかった。部屋の中は静かだった。

頭がクラクラする。私は自宅へ帰る途中で誰かに襲われたのだった。
意識がなくなる直前、ガーゼを持った白い手袋が視野に入ったきたことを思い出す。
早くここから出ようと思い、自分が閉じ込められてる場所がどこなのか調べはじめた。
私は左手を壁に着けながら時計回りに歩いた。
おおよそ10m四方の部屋の壁には、いくつもの扉がつけられていた。

もう一つ分かったことがあった。
部屋の真ん中に大きな山があった。
その山は多くの紙の束の集合体だった。
私はその束を一つだけ手に取ってみた。
この長方形、この質感、この帯
触覚しか頼らずとも推測できた。

持っていたはずの鞄がなくなっている代わりなのか、スーツのポケットにはライターが入っていた。タバコを吸わない私が持ち歩くことはしない。誰かが意図的に入れたのだろう。
私は自分の推測が正しいかどうか、確認しようと思った。
ライターをつけると火は大きく揺れていた。そういえば上の方でかすかに風の通る音が聞こえる。
私は紙の束から一枚を抜き出して、ライターの火を近づける。
福沢諭吉の顔が描かれていた。火を通して紙を見ると、中央の透かしも確認できた。

札束だった。
今私の目の前には札束で作られた山がある。
それは本当に“山”という表現に値する数の札束があり、山の頂点は私の身長をゆうに越えていた。
私は試されているのだと思った。
部屋から脱出することができれば、この札束の山が私の物になるのだと思った。

しかしどの扉も開くことはなかった。扉はどこも開かず、何の手がかりも見つからなかった。
この部屋から脱出する方法などないのだろうか。
時間だけが過ぎ、指先も冷えてきた。
私はこの苛立ちをどこへ向けたら良いのか分からなくなり、山へ飛び込んだ。
崩れた札束が私の身体を飲み込んでいく。

もしこの金を全て持ち帰ることができたら…
すぐに今の仕事をやめよう。
もともと給料ありきの仕事だったのだ。
やりがいなど感じていなかった。
そして世界各地を飛び回ろう。好きな物を食べて、好きな女を抱くのだ。
もしこの金を全て持ち帰ることができたら…

部屋の上方にある通気口が開き、ロープを伝って二人の作業員が降りてくる。
作業員は山の中から冷たくなった男を引きずり出して、元のように札束の山を作っていく。
「札束で作った階段を上るなんて、本物の金持ちしか考えられない発想だよな」
「ああ、山の前で人が悩む様子を楽しむなんて、本当に悪趣味な人だよ」
札束は自分の物にならなかったが、男は幸せそうな顔をしていた。

〜白川湊太郎〜

ショート小説コンテスト

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