『美女~という側面~』桃川涼太郎−ショート小説コンテスト④

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『美女~という側面~』

亮の周りに、美女は多い。姉に始まり、幼馴染み、友人の片想いの相手、それに恋人。
亮は気付けば、朝から晩まで、誰かしら美女の傍に居る。

「亮、おはよう! 今日は朝練ないんでしょ? だったら、一緒に学校に行こうよ 」
甘えるような声で話す姉のさくらは、弟の亮でさえ、一瞬ドキッとするほど可愛いらしい。白く冷たい指先を繋がれたら、ほんのり頬が赤らむのは隠せない。
「やだ、亮ってば照れてるの、可愛い 」
からかわれても、ぎゅっと口を引き結んで堪える。高校1年生の亮と高校3年生のさくら。性的にはさくらの方が早熟だったが、精神的には自分の方が成長期だと、亮は思っている。でも、さくらがあまり家にいない母に替わって、食事を作ってくれるとき、弁当箱の入った袋をとても自然に手渡してくれるとき、亮は性も精神も遥かに越えた遠くに、姉の存在を感じることがある。
「これ、亮のお弁当。残さず食べてね」
そんなとき、姉は朝日のような美女になる。

「亮、お疲れ様! 今日は朝練がなかった分、ハードだったね」
スポーツドリンクを手渡しながら、幼馴染みであり、テニス部のマネージャーでもある奈緒が亮に声をかける。奈緒の明るい笑顔を見て、亮は幾分元気を取り戻した。奈緒のマネージャーとしての才能は、細かい気配りや仕事をこなす要領の良さではなく、人を元気にするこの笑顔だ。
「蓮なんて、部長たちの目を盗んでサボってたのがバレて、今お説教受けてる最中だよ」
見れば確かに、コートの片隅で正座をしている蓮が、部長たちを前に大袈裟に泣き真似をしている。奈緒はそれを見て笑っていた。異性なのに同性のような気安さが心地好い。でも、部活を終えていざ帰ろうというときに、部室の小さな神棚に必ず手を合わせる奈緒は、やはり男にはないきめ細やかな情とか想いなんかを持っているのだ、と亮は感心する。
「今日もみんな無事に練習を終えることができました。明日もよろしくお願いします」
そんなとき、幼馴染みは青空のような美女になる。

「亮、丁度いいところに来た! 今、チイが来てるんだ。今度の旅行の計画立てる日を決めよう」
亮が校舎の正門に辿り着いたとき、蓮がそう呼び止めた。蓮の横には、蓮の片想いの相手の千草も立っている。勝ち気な瞳で気が強そうに見えるが、豊満に発育した胸が、少し印象を和らげているようだった。
「うちに来てもらうのが一番いいよね?」
うち、というのは、千草の家であり、千草の彼氏の家であり、また、蓮の家でもあった。蓮は千草に横恋慕をしながら、千草とその彼氏と一緒に暮らしている。亮だったら切なくなるような事態だが、蓮はいつも幸せそうに千草を見つめていた。そこへ、千草の彼氏もやって来た。千草の顔がぱっと明るくなる。蓮を見れば、蓮の瞳に、綺麗な女の子が写っていた。2人の男に愛されて、1人の男に一途に恋する彼女は、確かに綺麗だった。
「大樹、迎えに来てくれたの? 嬉しい」
そんなとき、友人の片想いの相手は夕日のような美女になる。

「亮、おまたせ」
正門で待っていると、亮の恋人であるクララがやって来た。手にはクラリネットのケースを持っている。彼女は吹奏楽部だ。亮は然り気無くそのケースを持ってやる。クララははにかむように笑ってから、空いた手で、亮の制服の袖を掴んだ。亮はこのおしとやかな恋人を、月のような人だと思った。風が一瞬強く吹く。クララが髪を押さえるより早く、髪が、というかウィッグが、地面に落ちた。
「うわぁ、しまった! 急いでたから、ちゃんと被れてなかった!」
蓮の顔で、蓮の声で、慌てふためいている。亮は苦笑しながら、持っていた荷物を地面に置いて、道に落ちたウィッグを拾い、それをゆっくり蓮の頭に被せた。亮の手の中で、友人の蓮が恋人のクララへと変わっていく。亮の手の中で、恋人のクララが生まれるような、代わりに友人の蓮が死んでいくような感覚がする。黙って目を瞑っている顔は、結婚式でキスを待つ幸福な顔にも、棺の中で沈黙の死を受け入れた哀しみの顔にも見えた。
「ごめんなさい、亮。ありがとう」
そのとき、仮初の恋人は、風のような美女になった。

亮の周りに、美女は多い。美女という側面を惜しみなくさらけ出す人々が多いからだ。

〜桃川涼太郎〜

ショート小説コンテスト

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