『オプション~選択されない~』桃川涼太郎−ショート小説コンテスト⑥

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『オプション~選択されない~』

ベランダで朝顔を育て始めた頃、スマホの育成ゲームアプリで、サボテンも育て始めた。『育てるハッピープランツ♪』という、意味のわかるような、わからないようなタイトルのアプリで、育てられる植物の種類はヒマワリと栗の木とスイカとサボテンだけだった。
なので、サボテンにした。
ゲームの始めに、進行役のセバスチャンに名前を聞かれて、そこは素直に「フユコ」と答えた。そうして次に、育てるサボテンの名前を聞かれたので、少し考えてから「マルコ」と答えた。マルコに出来る世話は3つあった。1日1回の『声掛け』と、土の乾き具合に応じた『水遣り』と、タイミング不明の『植え替え』で、その繰り返しによってマルコは育つらしかった。
まず声を掛けてみたら、マルコがキラキラと輝いて驚いた。次は水遣りをしようと、ジョウロの選択メニューを開いたら、始めは霧吹きしか選べなかった。霧吹きじゃ、ヒマワリや栗の木やスイカは育たないだろうと思ったが、幸運なことに、マルコはサボテンだった。霧吹きでシュッと水をあげたら、マルコはトゲをピンピンと揺らして喜んだ。たぶん、喜んだ。

ある日、セバスチャンにオプションを勧められた。オプションに登録すれば、サボテンのマルコと1日に1回会話が出来るようになります、と吹き出しがポップアップされている。興味がなかったので、無視をした。そんなことより、水遣りの道具を早く霧吹きからジョウロにレベルアップさせて欲しかった。
セバスチャンは来る日も来る日もオプションを勧めてきた。ついには、「マルコがあなたと話したがっています」ときたが、必要を感じなかったのでやっぱり無視をし続けた。
そうしているうちに、ベランダの朝顔は花をつけ、アプリのサボテンは、タイミングの不明だった『植え替え』が出来るようになった。植え替えると、マルコは一回り大きくなった。そう言えば、朝顔はもっと前から一回りも二回りも、いやもっともっと大きくなっていた。キラキラしたり、ピンピンしたりしない朝顔は、とても静かだった。なのに、その成長はすくすくなんて可愛らしいものではなくて、ぐんぐんぐんという力強い音が聞こえてくるようだった。しかもそれは、注意して耳を澄ますと聞こえないのに、ある日ふと見ると、強制的に過去に遡って追体験させられるみたいに聞こえてくる、不思議な音だった。

植物は声にならない言葉で話すのです。

暫くたった頃、セバスチャンの台詞が、オプションの勧誘から変化した。言っていることはよくわからないけれど、勧誘から解放されてほっとした。ふとした拍子に台詞を触ってしまい、有料サービスのリンクへ飛んで登録なんてされてしまったらどうしよう、と少し不安だったのだ。たかが育成ゲームに料金の発生は望まないし、そもそも植物とは一方通行の関係だから癒されるのだと思っている。

サボテンのマルコからあなたへメッセージがあります。(これは、オプションの登録をされていない方への配信です。*当メッセージにつきましては、料金は発生いたしません。)

あれから数日後、セバスチャンの台詞がまた変わっていた。しつこいとは思ったけれど、無料ならいいか、とメッセージを開いた。

「芽が出ますと、次は双葉が開きます。日光と水と風が何より大切です。花が咲きます。枯れますが、種ができます。種は、来年またフユコに会えるので、嬉しく思います。蔓が伸びたら、握手をしましょう。次はおしゃべりしたいです」

いくら無料のメッセージ配信とは言え、これは酷過ぎるだろう。サボテンが言う台詞ではない。芽はよく知らないが、蔓はおかしいと思う。トゲの間違いだろうか。でも、トゲだったら握手はしたくない。たぶん、これはスイカからのメッセージという設定なんじゃないだろうか。有料オプションの勧誘にしては、随分お粗末なお試し配信だ。スマホの画面の真ん中で、ボケっと佇むサボテンのマルコに目を遣って、言葉やおしゃべりなんてやっぱり必要はないな、と実感した。

そう言えば、ベランダで蔓を伸ばし放題だった朝顔は終に花が終わり、そろそろ種が取れる頃だ。

〜桃川涼太郎〜

ショート小説コンテスト

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