『商店街〜走るには最適〜』白川湊太郎−ショート小説コンテスト10

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『商店街〜走るには最適〜』

持っていた切符を駅員に渡した。
未だに有人改札なのは変わっていない。
何年振りだろうか、都会に就職してからは一度も帰ってきてないはずだ。
俺は高校時代まで過ごした田舎に戻ってきた。

せっかくなので、辺りを歩いてみる。
中学校では夏休み期間にも関わらず、多くの生徒が校舎の周りを走っていた。
そういえば、俺も学生の頃は運動部で、練習後はみんなで商店街の駄菓子屋に寄り道したものだった。
アーケードのかかった全長700mの商店街。学校側から500mくらい先に駄菓子屋があり
「よーいどん」
という合図で走り出して、誰が一番に着けるか競争していた。
あの頃はとても活気があった。お店には商品を買う人だけではなく、ただ話をするためだけにやってくる人もいて、どこに行っても声が聞こえていた。
俺は気になったので、その商店街にも寄ってみることにした。

とても静かだった。
八百屋、肉屋、魚屋も。服屋、雑貨屋、薬屋も。
お店は開けているが、お客さんはほとんどいない。
店員は新聞を読んだりテレビを見たりと暇そうにしていた。店を開けっ放しで家の奥に引っ込んでいる店員もいた。
俺は500mほど歩いて駄菓子屋に着いた。
「あら、ゆうちゃん、久し振りだねぇ」
「おばちゃん、なんでこんなに商店街に人がいないの?」
「どうしてだろうね。みんなこんな田舎は放って都会に行ってしまったのかねぇ」
俺もその一人だったので、何も言い返すことはできなかった。
駄菓子屋のおばちゃんは、もうおばちゃんではなくておばあちゃんになっており、時間の経過を感じた。

夜になってもう一度、商店街に行ってみた。
夜の商店街も人がほとんどいなくて、とても静かだった。
昼の商店街も夜の商店街もほとんど変わりはなかった。
悲しいかな、これだけ寂れた商店街だと誰ともぶつからず楽に走れると思った。
「よーいどん」
俺は商店街の入り口から全力で走り始めた。
普段はずっとデスクに座ってのパソコン業務ばかりだ、運動なんて全くしていない。
昼間にみた校舎の周りを走る中学生たちはもっと早かっただろう。
俺はできる限り腕を振って、転ぶか転ばないかギリギリのところまで重心を前に傾ける。
八百屋、肉屋、魚屋も。服屋、雑貨屋、薬屋も。
全力で走りながら店の前を通り過ぎると、不思議と活気があった頃の商店街が見えたような気がした。
商店街の端から端まで全長700mの距離を走り切ると、その場で倒れ込んだ。
歩行者専用の通りなので、車に轢かれる心配はなかった。
「おにいちゃん、大丈夫かい?」
通りすがりのおじさんが声をかけてきた。
「走ってるところ見てたよ。これ、とっときな」
どこかのお店の粗品で配られているタオルが置かれた。
「あ、ありがとうございます。」
ハッ、ハッ、と息を荒げながら礼を言う。
思わず走りたくなるような長い直線があり、上には雨を凌ぐためのアーケードもついている。横には様々な種類のお店が並んでいる。それにこうやって走っている俺のことを見てくれている人もいる。こんな商店街でも何かできることはあるんじゃないだろうか…
俺はまた今来た商店街の道を走って戻った。

それから数年後、俺はこの商店街でマイクを持っていた。
「さあ始まりました! 第6回藤ノ宮商店街主催の買い物競争。今回も参加者が全力で走れないほどの人数が応援に来てくださいましたね(笑)それでは始めましょうか、ヨーイドン!」

−白川湊太郎−

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