『商店街~すてき商店街へようこそ~』桃川涼太郎−ショート小説コンテスト10

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『商店街~すてき商店街へようこそ~』

休日の午前中は、ごろごろするに限る。もちろん、午前中は雨で、午後から晴れるというの
なら、午後にごろごろしてもいい。とにかく、日当たりがよく、風通しもよいこの家は、周
りに他の家が建っていないこともあってか、住む者を純粋なのんびり屋さんにするようだ。
転た寝が終わったら、今度は散歩に出掛ける。行き先は、公園を通って、商店街だ。自然的
なものは家の付近にたんとあるから、散歩では、別なものと関わりたい。それも、すてきな
ものに。
商店街の入り口は、パンジーとチューリップで飾られていた。中からは、コロッケの匂いが
漂ってくる。お肉屋さんのコロッケだ。お肉屋さんのくせに、かぼちゃのコロッケが大人気
で、でも、本当においしいから、みんな、それでいいや、と思っている。アーケードをくぐ
ると、すぐ左手に写真屋さんがある。店の入り口の窓には、七五三姿の子供や、着物姿の女
の人、タキシード姿の男の人に紛れて、店主の写真が貼ってある。ピースをしている写真、
奥さんと寄り添う写真、孫を抱いている写真、どれも幸せそうだ。去年から、奥さんの写真
が増えることはなくなった。でも、店主や店主の孫の写真が増えるたび、奥さんの写真も
こっそり増えていくような気がする。
中に進むと、本屋さんが見えてくる。店のドアを開けると、小さな店員さんが恥ずかしそう
に笑いながら迎えてくれる。そして、ハチミツ入りのミルクと1冊の絵本でもてなしてくれ
る。絵本には、『すてき商店街』という商店街がクレヨンで描かれていて、その商店街は見
るたびにどんどん長くなっていく。誰かが「時計屋さんもあるといいな」と呟けば、それを
聞いた小さな店員さんが、絵本の商店街にすぐさま時計屋さんを描き加えるからだ。学校に
なんて行っていなくても、この小さな店員さんは、とてもクリエイティブに生きている。
もっと中に進んでいくと、お店とお店の隙間にお地蔵さんが佇んでいるのが見えてくる。こ
このお地蔵さんはいつもひまわりみたく笑っている。お供えの花が、いつ見ても造花でない
のがみんなの自慢だ。
この辺りまで来ると、果物屋さんの甘酸っぱい匂いが漂ってくる。ビワに梨、キウイにデコ
ポン、メロンにスイカ、夏には、特製のアイスキャンディも売られている。それから、奥さ
んの作る果物ジュースも絶品だ。日替わりの果物をいくつか混ぜて作られるジュースは、健
康にもとてもいい。でも、このジュースはしばらくお休みするらしい。奥さんに赤ちゃんが
生まれるからだ。店の主人が嬉しそうに、自慢気に、そう話していた。
商店街も終わりに近づいたところに、レトロな時計屋さんがある。チックタックチックタッ
ク、ボーンボーン、と聞こえてくる音につい脚を止める。窓から中を覗くと、真剣な眼差し
で時計を直している青年の姿が見えた。
「あっ、猫だ! 可愛い!」
子供の突然の声に驚いて振り返ると、キラキラと瞳を輝かせた子供と目が合った。この商店
街の本当にいいところは、こういう子供の声があちらこちらから聞こえてくるところかもし
れない。
そんなことを思いながら、首輪の鈴をチリンと鳴らすと、尻尾をゆっくりと揺らしながら、
商店街を後にした。
「すてき商店街へようこそ」とクレヨン調で書かれた出口が素晴らしい。

−桃川涼太郎−

ショート小説コンテスト

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