『壁〜初恋〜』黒川洸太郎−ショート小説コンテスト11

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『壁〜初恋〜』

ポケットに手を突っ込みウォークマンを聴きながら歩く。
これが今のところ僕に出来る一番のかっこつけだ。
この壁の前を歩く時のデフォルトスタイルになっている。
見てるかな。まだ登校には早いだろう。

図書館に行くのは読書が好きな訳でなく、
下校時間を遅くしているのだ。
コンビニによって肉まんを買う。
それを食べながら、この壁の前を歩く。
出来るだけ男らしく。片手はもちろんポケットだ。
見てるかな。もう部屋にもどってるだろう。

ナイキの靴を履き、イヤホンを付け、パーカーのフードを被る。
どこかで見たボクシングスタイルだ。
別に体力をつけたいわけじゃない。
あの壁の前を通ることが大事なんだ。
明かりが付いてるのを確認する。
少し体力を温存し、その壁が近づくと、なるべく速く走る。
見てるかな。意外と速いだろ?

週末は決まって犬を散歩させる。
世話をしたいわけじゃない。どちらかというと動物は好きじゃない。
シャツのボタンを外して少し色気を出してみた。
見てるかな。可愛い犬だねって今度しゃべりかけてくれるかな。

次の朝は少し遅れて家を出てみた。僕が壁の前を歩く時に出てきたらどうしようか。ドキドキしながら遠くの壁を見ていると彼女が出てきた。

僕は彼女の後ろ姿を見ながら通学をする。もう少し近く。もう少しと、歩を早める。足音が聴こえるんじゃないかと思える距離。彼女の後ろ姿が神々しい。髪の毛が日にあたり輪っかが付いている。歩く速度をぐんと落とす。歩くのは意外と遅いようだ。

デフォルトスタイルで加速する。僕の鼓動がエンジンのように働く。彼女との距離を詰める。遠からず近からず一番良い横の距離感。少し胸を張り堂々と抜かしていく。

見てるかな。意外と背が高いんだぜ。

−黒川洸太郎−

ショート小説コンテスト

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