『とんかつソース〜わずかな女子力〜』白川湊太郎-ショート小説コンテスト13

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『とんかつソース〜わずかな女子力〜』

普通のOLならばとっくに自宅へ帰ってお風呂に入り、ベッドの中にいるだろう。
しかし普通じゃないOLの私はこの時間も仕事をしている。
デザイン事務所で働くことがこんなにも大変だったとは…毎日何かの納期に追われていて、終電で帰ることができれば良い方。もし帰れなかったら夜通し仕事をして、始発で帰ってシャワーを浴び、仮眠をとって再び出勤する。
こんな狂った生活をしているといつか頭がおかしくなりそう。

時間もなくて、お金もなくて、むさくるしい男ばかりの空間で低下していく女子力。
午前1時、私は職場の共用冷蔵庫からキャベツを取り出し、スライサーで千切りを作り出す。
どうしてもお腹が空くときにはこの山盛りの千切りキャベツを食べている。
本当はシュークリームとかプリンとかのスイーツが食べたいけれど、ここで働きだしてからの体重変動が激しいので、控えめにしているのだ。
千切りキャベツは細かいから食べやすくて、少しだけ甘くて、カロリーもない。私はこの豊富な食物繊維を摂取しているだけで、わずかな女子力を保っているような感覚でいた。

「またお前はそんなもんばかり食べてるのか?」
振り向くと先輩がいた。先輩はスーパーで買っておいたとんかつを温め直していた。
「これが私のできるギリギリの女子力なんですよ」
なんとか口元だけで笑顔を作って見せる。おそらくメガネでも隠しきれない隈のせいで目は笑っているように見えないだろう。

「なにが女子力だよ。ほーら、お前にも少しはカロリーを分けてあげよう」
そういう先輩がキャベツの上にかけたのはとんかつソースだった。
「いやいや、くどくなりますから…というかカロリーならとんかつをくださいよ」
後ろにいる先輩に呆れた顔をしてみせたけど、彼はへらへらと笑っている。
私は仕方なく真っ黒になった千切りを食べた。とんかつソースが染み込んだキャベツを口の中に含んで、そのキャベツの水分を奪っていく。
「私が欲しいのはカロリーなんかじゃないんだけどなー」
そう言いながら食べた千切りは、キャベツの甘さだけではなくて、とんかつソースの中に入っているりんご、にんじん、トマトなど、野菜や果物の甘さも遠くで感じることができた。

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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