『黒のTシャツ~ずっと一緒~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト14

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『黒のTシャツ~ずっと一緒~』

毎日肌に身に着けるのは黒のTシャツだと決めていた。決めていたというよりも、選んだり考えたりすることが面倒だったので、いつも同じお店で同じ黒のTシャツを買っていた。白のTシャツなんて根暗で偏屈な俺には似合わないと思って着なかった。そんな俺は一人暮らしで彼女もいない。

ある夜、俺は夢を見た。いつも着ている黒のTシャツの夢だ。

暗闇の中でTシャツが宙を浮いている。かと思うとそれは急に大きく輝き、首元の部分から女の顔が生えてきた。その女は黒のTシャツが似合うような美しい容姿であって、俺の好きなタイプの女だった。

その日から俺の生活に変化が起こった。夢から覚めた現実の世界でも黒のTシャツに女の顔がついているように見えるのだ。実際にそのTシャツを着て出かければ、女とデートしているような気分になれた。俺は今まで一度も女とデートなどしたことがなかったので、この感覚はなかなか楽しかった。

服装にも気を遣うようになった。自分一人ではなく、誰かと一緒にいるからこそ、お洒落は面白いのだと知った。持っているスクラップブックの中の男たちはみな、黒いTシャツを着ていた。

ある日、今までに見たことない、黒のTシャツに出会った。

彼女(と言っても俺の着ているただの黒いTシャツではあるが)は買わないように忠告してきたが、俺は一丁前に彼女のことを嫉妬させてみたくなったので、そのお店でも黒いTシャツを買い、家に持ち帰った。

俺の予想通り、その夜の夢では新しく買った黒のTシャツから女の顔が出てきた。その女もまた美しく、魅力な女だった。

目が覚めた俺は買ったばかりの黒いTシャツを着て出かけることにした。新しい黒のTシャツと出かけるのはとても楽しかった。

こんなことを何度も繰り返していた。俺は知らないお店で黒のTシャツを買い、夢で新しい女と出会い、それを着て街を歩く。それの繰り返しだ。

衣装ケースに入りきらないほど、Tシャツが増えてしまい、全て壁にかけて飾ることにしたので、俺の部屋はどんどんと黒に侵食されていった。

部屋の壁の黒さが増すにつれて、Tシャツの女性はだんだんと意思を持ち始めた。はじめは頷いたり首を振ったりする程度だったが、いつのまにか話ができるようになっていた。

「ねえ、今日はどこにいくの?」

「あの子ばっかり着ているじゃない」

「早く私を着てよ」

「他のTシャツと並べて欲しくはないわ」

黒のTシャツ同士が喧嘩をして、嫌味を言うようになった。

俺はこのままでは気が狂ってしまうと思い、決心して全てのTシャツを燃えるゴミに出してしまった。罪悪感もあったが、それよりも自分の方が何倍も大事に決まっていた。

「しまった、代わりのTシャツがない」

パジャマのまま捨てに行ったので何も考えていなかったけど、家にある肌着を全て捨ててしまったのだ。今日は直にシャツを着るしかないな、などと考えながら、アパートへ戻る。部屋を出たついでに郵便も確認しておこうと郵便受けにいくと、何やら大きな黒い塊が見えた。どうやら今日も、そしてこれからも、彼女たちと過ごすことになりそうだ。

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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