『一生懸命〜道化〜』白川湊太郎-ショート小説コンテスト16

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『一生懸命〜道化〜』

『かんぱーい』

勢いよくジョッキを傾けて、喉を鳴らしながら大きな音を立てて飲む。

「いやあ、みんなで飲むお酒は格別に美味しいですねえ!」

わざと大声を出してみる。考えてみたら仕事中はこんな声は出してはいない。

俺の勤める職場では一年に4回ほど、毎シーズン飲み会が行われる。

俺はこの飲み会がとても苦手だ。みんなが大人しく、粛々と飲むだけで盛り上がることはほとんどなかった。こんな居心地の悪いものは避けたいが、飲み会を休むっていうと社長がすごく嫌な顔をするんだ。「金を出してやるんだからお前も来い」と半ば強制的に参加させられる。

だから俺は飲み会で一生懸命に酔ったフリをしている。

俺が道化を演じることによって、飲み会が円滑に盛り上がっているのだ。

「大丈夫ですか、そんなにお酒強くないんですから…」

3杯目のビールジョッキの前に、お水が置かれる、

こんな風に心配してくれる人もいて、それはそれでありがたいことであるがこんな風にも考えられる。

俺は、俺が一生懸命酔ったフリをすることで、周りの人間にも心配したり介抱したりするという飲み会での役割を与えているのだ。俺が道化に徹することによって、発言するきっかけが生まれ、それぞれの飲み会での存在価値が生まれているのだ。

「あいつ、また酔ったフリしてんな」

「ああ、なんか残念なやつだよな」

遠くの席に座る同僚達が俺の方を見て憐れむ顔をしているが気にしない。むしろ飲み会での話のネタになってやっているのだから感謝して欲しいものだ。

社長が俺のそばに座った。

「おう、お前も飲んでいるか?」

「はい、みんなで飲むお酒美味しいですねぇ!」

考えてみたらさっきと同じこと言っていたが、誰もそんなことは気にしていなかった。

みんなが俺の道化に気付いていたとしても、同僚に陰口を言われようとも、俺は一生懸命酔ったフリをしてみんなに役割を与えよう。

そんなことを考えながら、もう一度ジョッキを勢いよく傾けた。

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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