『靴下~足元から元気を~』白川湊太郎−ショート小説コンテスト18

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『靴下~足元から元気を~』

新しい配属先でも支店長を務めることになったが、みな優秀なので仕事も大きな問題なく進められるだろうと思った。
一つだけ疑問があるとすれば、窓口に座りお客様の応対をしている女性だ。仕事は丁寧でミスもほとんどない。
靴下が恐竜のイラストでなければ言うことなしなのだが…
恐竜だけではない、新幹線のような小さい男の子が好みそうなものや、アニメのキャラクターのことだってある。
銀行の窓口業務だけならば、お客さんに足元を見られることもないと思うが、一緒に働くこちらとしてはかなり違和感がある。おそらく何も知らないのは新参者の私だけだろう。
他の誰かに尋ねても良かったが、せっかくなので彼女自信に靴下の理由を聞いてみることにした。

「ちょっと君」
「なんでしょうか?」
業務を終えたばかりの彼女がこちらを向いて立ち上がる。テーブルの下から出てきた恐竜に光が当たり、思わず目がそちらにいってしまう。
「どうして、毎日面白いイラストの靴下を履いているんだ?」
「だめですか?」
「うーん、だめではないが、理由を教えてくれないか?」
良し悪しは二の次で、とりあえず真相を知りたかった。
困った顔の私に対して、彼女なにこにこしながら答えた。
「この仕事をしていると、いや、どんな仕事でも落ち込むことがあると思うんです。そんな下を向いてしまったときも、足元を見て笑えたらなんだか素敵じゃありません?」
「そうかも知れないが…」
私は唸ることしかできなかった。

「ただいま」
一日履いていた革靴を脱ぐと、黒い無地の靴下が現れた。
さすがに支店長の自分が同じことをやっては周りに示しがつかないが、彼女の発想はなかなか面白いと思った。
柄物の靴下に関しては、お客様には気づかれないこと、頭取が来店する日だけは黒色で無地の靴下を履くことを条件にして許可を出した。我ながら甘いと思う。前の支店長はどう対応していたのだろう。
「おかえり」
ちょうど玄関の前を通った娘が出迎えてくれた。あまり気にしてはいなかったが、娘の靴下にも可愛いイラストが多く、今は足の甲の部分に犬の顔が描かれたものを履いている。
「お前も落ち込んだときに足元を見て元気出してるのか?」
「は、なに言ってんの?」
今日覚えたての考えを家に持ち込んでみたが、娘にそんなもの伝わるわけもなく、横に伸ばされた犬の顔が私のことを笑っているように見えた。

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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