『毒〜なんとなく毒なんだな〜』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト19

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『毒〜なんとなく毒なんだな〜』

彼は自分が作った料理に満足している。
私の誕生日を祝ってる訳では無い。惚れてる女に紳士ぶる自分に酔っているだけだ。別に私じゃなくても良い。
先月偶然街で見かけたあの大人しそうな女でもいい。結局この男は誰でも良いのだ。

「ねぇ。このワイン飲もうよ。」私は袋から出したワインを彼に渡した。
彼はワインのラベルをあたかも詳しいかのように見て放った言葉は「良い色だね。」
何を言ってるんだか。
「私の産まれたころのボトルなの。思わず買ってきちゃった。飲もうよ。」
「良いね。」彼は自分のペースを崩されたのが嫌だったようで表情が曇る。
「グラスが無いからまた今度にしないか?」白ワインを飲んでいたグラスを持ち上げ彼は言う。

「グラスなんてなんでもいいよ。誕生日に飲むから意味があるんじゃん。」
私が引かないところを見て彼は驚く。いつもイエスマンの私の不自然な言動に警戒してしまっただろうか。
「それもそうだね。」彼は普通のコップを2つ取り、慣れた手つきでワインを開ける。
その一挙手一投足を私はずっと見て、彼が目が合った瞬間に見とれているフリに切り替えた。

グラスにワインが注がれると、手に汗が出てきているのが分かった。
「俺赤ワインあんまり飲まないんだよね。」
「なんで?」
「血を飲んでるみたいじゃん。映画でも悪い奴はみんな赤ワインを飲んでるし。」
「そんなことないよ。」どんな映画を観て彼は偏っているのだろう。

「やっぱり今日はやめとこう。少し気分じゃない。赤ワインはグロテスクだ。」
「誰もそんなこと思わないよ。良い色って言ってたじゃん。」
彼は自分の言ったぺらぺらの言葉の存在に気付く。
「グラスに入れたら色が鮮明になっちゃったんだ。赤はやっぱり良くない。」
「えー乾杯しようよ。せっかくのワインがもったいないよ。」
「じゃあ君は赤ワインを飲んだら良い。僕はこの余った白ワインで乾杯するとしよう。」

なぜこんな展開になったのか。これでは全く意味が無い。
「それはダメ。」
「何がダメなの?」
「だって一緒に飲んでほしいんだもん。」
「どうしたの?今日なんか変だね。」
「あなたのために買ってきたの。これを飲んで欲しくて。自分の産まれた頃のワインをあなたに飲んで欲しいの。」
彼の黒目がよろよろと動き、明らかにおかしい私にすっと近づいた。
「うん。君はやっぱり今日変だよ。すごい汗じゃないか。」

彼はすばやく後ろを振り向き、赤ワインをもったグラスを持ち、それを流しに捨て、水を汲み、私に近づき魚の様な目で差し出した。
「少し水を飲んだ方が良い。」
私はぞっとした。洗えているのか分からないこのグラスで水を飲むリスクを考える。
「いらない。」
私の強引さと我が儘が彼をイライラさせはじめた。

「なんで飲んでくれないのよ。せっかく赤ワインを買ってきたのに。グロテスクってなによ。子どもじゃないんだから。なんで赤ワインぐらい飲めないのよ。」
「誰が飲めないなんて言ったんだ?」
「飲めないって言ったじゃない。飲んでよ。一緒に飲もうよ。お願い。」

彼は何か諦めた様に、はたまた苛ついたように、もう1度グラスにワインを注いだ。
「分かった。分かったよ。飲もう。乾杯だ。」
言ってるみるもんだ。私の勝ちだ。
「乾杯。」

「さぁ。レディーファーストだ。」

−黒川洸太郎−

ショート小説コンテスト

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