『地下鉄〜いたって普通の日常〜』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト20

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『地下鉄〜いたって普通の日常〜』

多くの頭がうじょうじょ。
全員がなんの疑問も持たず着ているヨレヨレの黒のスーツ。
能面のようにうつるおっさんたちの顔。

『こんな社会の一部にはなりたくないなぁ。』
大学時代に考えていたことをふと思い出した。
地下鉄の車窓にはヨレヨレの顔がはっきりと見える。
陽の当たらない場所にぴったりの設定だ。
まるで『お前これで良いのかよ』と自分が自分に投げかけてくるみたいだ。

「、、れ、、と、、、、、たよ。」
突然背中をトントンと叩かれドキッとし、振り向くと女子高生が僕を見上げていた。
慌ててイヤホンを取ると、彼女は
「これ落としましたよ。」と言い、僕のRUSSITの定期入れを渡してくれた。
「すいません。ありがとうございます。」と形式的に言い、視線も合わせず真っ暗な車窓に目を戻す。
自分の顔を観ると信じられないくらい不細工な顔をしていて、なんで俺はこんなに鼻が低いんだろうと嫌気がさす。

「すいません。ありがとうございます。」を反芻する。車窓に向かい、口パクでもう一度言ってみる。こんな感じに見えたんだろうか。もう一度自分で自分の言葉をリピートする。
「すいません。ありがとうございます。」
これから一生あわない相手になにを気にしてるんだろうか。

真っ暗な車窓をミラー変わりにして女子高生の顔を覗いてみる。前髪が揃っている。地味だけど陰キャラ達には人気が出そうな上品な顔立ちをしている。
背中の感触を思い出す。本当に俺は気色悪いなぁと感じる。

RUSSITの定期入れを見て彼女は何を思ったんだろう?この人センス良いなぁ。どんな顔してるのかなぁと気になって声をかけてくれたのかもしれない。もう一度車窓越しに彼女を見る。すると彼女も同じように僕を見て、車窓の中で目が合った。

次の駅で彼女は降りた。18時20分の下り普通電車階段近くのドアと僕はインプットする。
明日から生きる目的が出来る。能面の顔に生気が戻る。
俺は信じられないぐらいに気色悪い。

−黒川洸太郎−

ショート小説コンテスト

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