『地下鉄〜同じ方向〜』白川湊太郎−ショート小説コンテスト20

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『地下鉄〜同じ方向〜』

改札を出た、JRの改札だ。俺が住んでいるあの田舎と今いるこの都会が同じ日本だということを不思議に思っていたが、特急に乗って外の景色を見ていたら、だんだんビルの数や高さが変化していったので、なんとなく一続きの土地なのだと理解できた。
とにかく都会は人が多い、どこにいても人、人、人…数えきれないほどの人が、それぞれ思い思いの方向に進んでいくので、上手ぶつからないように歩くことがとても大変だった。俺はどこか人とぶつからないところに逃げ込みたいと思った。

都会には地下鉄という乗り物があるらしい。地下を走る鉄道だ。これは人の多い都会にしかない。人が少なくて、余るほど土地のある田舎では地下鉄など必要なかった。

地下鉄ならば、地上よりも人の数が少ないだろうという考えが甘かった。地下鉄というものは、満杯になるまで人を詰め込み、走り出すこともあるらしい。地上を歩くよりも地下鉄の方が人間の密度は濃い。そして次の駅に着くまでその密度は変わらない。俺は人との間隔を気にしながら隅の方で立っていた。

当たり前のことだが、地下鉄の線路は暗い。地上の太陽もここまで届かない。これでは都会から都会への変化に気づくことはできないと気づいた。

地下鉄は乗客を同じ方向へ進んで行く。地上の人間たちはそれぞれの思い思いの方向へ進んでいるのに対して、そいつらが気づかない足元で俺たちは同じ方向を進んでいるのだと変な優越感を感じていた。

反射した窓越しに車内を見回す。音楽を聞いているやつ、スマホでゲームするやつ、満員の中で友人と会話するやつ。恋人がふらつかないようにがっちり守っているやつ。みな同じ方向へ進んでいても、考えていることはバラバラなんだと気づいた。

窓にもうひとつ映っているやつがいた。都会の人波にぶつかって、疲れ切った俺の顔。俺が疲れていようがいまいが関係なしに、地下鉄は乗客みんなを同じ方向へ運んでいく。

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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