『奇跡~なんとなくの重なり~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト22

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『奇跡~なんとなくの重なり』

疲れていて一瞬迷ったが、『やらない後悔』をしたくなかった。彼女の落とした定期入れは電車とホームの間に落ちそうになり、ギリギリのところで電車側に滑り込んだ。彼女は気付かず歩いていき、僕は扉が閉まる数秒逡巡する。

今日、渡辺が会社を辞めた。悩んでるのを知っていながら僕は結局声をかけなかった。タラレバになるが僕があの時手を差し伸べればアイツは辞めずに済んだだろう。アイツが息子の誕生を僕に自慢してきた10年前の出来事がフラッシュバックしてきた。

定期入れを手に取り、彼女を追いかけようと外へ出る瞬間、見事に扉が閉まり腰を強打する。痛みを抱えながらも振り返ったり転んだりしたら恥ずかしいから、顔色変えずに突き進む。階段を一段とばしで駆け上がると、改札で立ち往生している彼女に定期入れを渡す。

「落としましたよ。」と息を切らす僕に彼女は驚いている。小さな声で何かを言った気がしたので、お礼めいたことなんだろう。長身で綺麗な人だった。
僕はとぼとぼとホームのベンチに座り、15分後の普通電車を待つ。何をやってるんだろうか。渡辺にこれをしてやれなかったのは、男女の違いだろうか。自分の中の色気めいたものに嫌気がさす。階段からヒールの音が聴こえる。

「私も待ちます。」視線を上げるとさっきの彼女が目の前で立っていた。僕は驚く。
「私のせいで電車が遅れちゃいました。だから私も待ちます。」『あなたが待ったからといって帰るのは早くなりません。』と言うのは心にしまい、「いや、いいですよ。自分が勝手にやったことですから。」とかっこつける。
「隣いいですか?」女性というのは良く分からない生物だ。男はいつだって言われるがままだ。

「なんで拾ってくれたんですか?」俺だって聴きたい質問だ。「なんとなくです。」心から出た答えだった。
「逆になんで僕の横に座ってるんですか?」トゲのある言い方だっただろうか。「なんとなくです。」少し笑いながら答える彼女は可愛かった。これはどうゆう展開にするべきなんだろうか。僕はいろいろ考えたが、なんかそんな気分にもなれず、ボーっと夜空を見上げ、黙ることにした。電車がくるアナウンスが流れた頃、彼女は決心したかのように口を開いた。
「本当は『やらない後悔』をしたくなかったんです。」

-黒川洸太郎−

ショート小説コンテスト

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