『奇跡~同じ持ち物~』白川湊太郎−ショート小説コンテスト22

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『奇跡~同じ持ち物~』

ガチャン、と大きな音がした。何事かと思ったカウンター席の女が読んでいた本から目線を変えると、隣の席に座る男がカップを倒していた。テーブルにコーヒーが広がっていく。
「ああ、すみません!」
男は素早くハンカチを取り出し女の所までコーヒーが流れていかないよう配慮するが、もともとカップに残っていたコーヒーはそれほど多くなかったので、隣の席まで届くことはなかった。
「大丈夫ですか、かかってませんか?」
心配そうな顔をしながら女に声をかける。
「ええ、大丈夫ですよ」
「そうですか、よかったあ」
安心した様子を表現するために、椅子の背もたれに寄りかかりながら安堵の溜め息をついた後、急に思い出したように呟いた。
「ああ、でもハンカチが染みになっちゃうな。せっかく妹からプレゼントしてもらったのに」
男がハンカチを広げてしげしげと眺めていると、見たことのあるハンカチのデザインに女は興味を持った。
「あれ、それ鳥獣戯画ですよね?」
「そうですよ。ご存知ですか?」
「私、鳥獣戯画好きなんですよ」
女は読んでいる本に右手の人指し指を栞代わりに挟んだままで、少し嬉しそうに話している。
「そうなんですね、僕も妹の影響で興味を持ちはじめたんですよ。この前も鳥獣戯画のグッズ買ったですけど…なんだったかな…」
考える素振りを見せながら男がカバンからスマートフォンを取り出すと、またもや女が興味を示した。
「あれ、そのスマホケースって」
「ん? ああ、スキマスイッチですよ。最近よく聴いてて…」
女は慌てて読んでいた本を机に置いた。どうやら自分が人指し指を栞代わりに挟んでいたことも忘れていたようだった。自分のカバンからスマホを取り出し男にケースを見せる。
「これ!見てください!!」
女も同じ柄、同じ色のスマホケースを持っていた。
「え、一緒じゃないですか!?」
男は大きく身体を動かして、驚いたリアクションを取っていた。
「すごい、こんなことってあるんだ…」
「なんか嬉しくなりますね。良かったら少しお話しませんか? コーヒーもこぼれちゃって頼み直すので、あなたも良かったらご馳走しますよ」
「え、いいんですか?」

~数日前~
男は自宅のデスクトップPCでtwitterを開いていた。
“吉祥寺 よく行く”で検索をかける。
「吉祥寺よく行くの?」「吉祥寺よりも高円寺によく行く」など様々なツイートが表示される中で「吉祥寺によく行くんだけど…」と書かれたツイートを見つけた。確認すると鍵のついていない女性のアカウントだったため、過去のツイートを遡る。画僧付きツイートの中から女性の顔写真やプリクラを探し出すためだった。
(なかなか可愛いな…)
男は薄気味悪くニヤリと笑い。さらに他の画像付きツイートも確認する。
「○月×日 鳥獣戯画展に行って来た。最近すごいハマってる!」
「○月△日 スキマスイッチ楽しかった!! スマホケースも買えて良かったな~」
(なるほどな…)
男は紙に“ハンカチ、鳥獣戯画” “スマホケース、スキマスイッチ・ロゴver・レッド”とメモを取った。

~数分前~
自宅のデスクトップPCでtwitterを開いていた。
「スタバなう。ここいつも来てるな~」
というツイートを確認する。
「よし、行くか」
ポケットには鳥獣戯画のハンカチ、カバンにはスキマスイッチのスマホケースを入れて、男は家を出た。

奇跡は作れる

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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