『サンタクロース~流体と個体~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト25

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『サンタクロース~流体と個体~』

クリスマスで街が大渋滞の中、僕だけが流体だった。
SR400が放つ単気筒の音が、乾いた空気に良く響く。
止まっている車は即ち固体であり、それをすり抜けていく僕だけが生を帯びてる様だ。

「あいつ岡田先輩と付き合おうと思ってるらしいで。」
友人の言葉が僕のトリガーを引いた。居てもたってもいられず電話をかけた。
「今から話したいことが有るんだけど。クリスマスなのに忙しいかな?」言葉が浮ついていた。
「親とパーティーするだけだから大丈夫だよ。」しっかりと地に足が付いている声だった。

この身体から鳴っている音は、バイクから伝わる振動なのだろうか。
片道35分の国道47号線を五速にギアを上げひたすら走る。
彼女のマンションへ向かう途中、何を言うべきかを考えた。
臭い言葉もいろいろ浮かんだが、会ってから素直な気持ちをぶつけることに決めた。

車のネオンが走馬灯のように思い出を反芻する。
一緒に行った買い物や授業。彼女は何も感じず友達として誘っていたのだろうか。
居心地の良い相手を演じ切ってしまった僕は、何を言っても彼女の心を響かせることは出来ないのだろうか。
一刻一刻彼女との距離が詰まっていく。

ドクドクと心臓の音が加わり、流体の僕はより生を帯びる。
いつも聴いているMP3も付けてくるのを忘れた。
信号を待っている時、早く変わって欲しいと願う半面、一生変わるなと願っていた。
後先考えずに衝動的なのを知っているのは僕だけだろう。
こんなにも人を好きになるということが人を狂わせるものなんだと知った。

心がスピードに追い付かない。
気がつくと僕は彼女を抱きしめて臭い言葉を吐いていた。
どちらにとっても諸刃の剣であることは分かっていた。
サンタがいるならばいっそこのまま個体にして欲しかった。

-黒川洸太郎−

ショート小説コンテスト

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