『サンタクロース~夢運び~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト25

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『サンタクロース~夢運び~』

 小さな頃――幼稚園児くらいの頃に、一度。
 母に怒られたことがある。
 生まれて初めて、怒られた。

 もう、俺は三十を少し過ぎているというのに。
 いまだに、それだけは覚えている。

――サンタクロースは、夢を運ぶ仕事なんだよ――

――それをバカにするなんて――

――そんな最低な子どもに育てた覚えはない――

――出ていけ。二度と帰ってくるな――

 そう言われて、家の外に出された。

 当時は、訳がわからなくて、一晩中泣いて謝罪した。

 その時、ナンパから帰ってきた父が、俺に話を聞いて、母が怒った理由を話してくれた。

――たとえ、嘘だとしても――

――それはね、とても大切なものなんだよ――

――お前も、親になればわかるものさ――

 やっぱり、意味がわからなかった。

 けど、今はわかる。

 俺も、二児の父。
 あの時のことが、今、やっとわかる。

「ねえ、お父ちゃん!」

 と、娘の哉恵が俺の膝を叩く。
 若干痛い。
 痛いのを我慢しながら「ん?」と聞く。

「どうした? 哉恵(かなえ)」

「サンタクロースって、いないんでしょお? ほいくえんのお友だち、言ってた!!」

「……哉恵。サンタクロースは、夢を運ぶ仕事している人でね、ちゃんといるんだよ」

「うそだあ~。だって、それって、お父ちゃんとかお母ちゃんとかでしょ?」

「バカ野郎。いるんだよ。マジ、大事な仕事してる。すごい人をバカにするような最低な子どもに育てた覚えはねえよ」

 出ていけ、と強く言うと、哉恵は驚いて泣いて、玄関の外に出ていった。

――お前、俺に似てるなあ。

 と、思っていると、娘の靖愁(しずか)が怒りながら俺を叩く。

「ねえ、かなえないてる!!」

「お父ちゃん、悪くないからね。哉恵が悪いんだよ」

「悪くないもん!! かなえ、悪くないもん!! お父ちゃんなんか、だいっきらい!!!」

 と、靖愁は泣きながら玄関の外に出ていった。

 パタンッと扉の閉まる音を聞いて、ため息を吐き出す。

――いつか、わかるよ。

 と、思いながら、部屋の天井を見ていると、妻の恵美(めぐみ)が俺のところに来る。

「ね、井村(いむら)先生。ちびたち泣いてるんだけど」

「恵美ちゃん。まず、呼び方直さない? てか、あれはあいつらが悪いんだよ。サンタクロースをバカにしやがって」

「いやいや、だとしてもさ。言い過ぎでしょ。出ていけ、なんて。それと、呼び方はごめんなさい。慣れよ、慣れ。靖弘(やすひろ)さん」

「そのくらい強く言わないとダメなんだよ。いつかわかるさ。俺が、わかったようにね」

 と、言って俺は隣に座る恵美を見る。

「サンタクロースは、夢を運ぶんだよ。存在がいる、ていうだけで子どもたちはどんな者なのか、正体を知ろうと頑張るだろ? そういうのって大切なんだよ。想像力ってやつかな」

「そんなの、サンタクロース以外にもできるでしょ?」

「そうかな? 今は、なんでもできる時代だよ。気になりゃ、すぐに答えが出てくる。答えがないのは、国語くらいさ」

 だから、大切なんだよ。
 想像力は、生きるのに。

「そのうち、気づくときはあるだろうね。それは、存在しない。嘘なんだ、と。でも、どんなものなのか、て想像していた時間は、無駄ではないだろ?」

「そうかしら」

「まあ、これは俺の意見なだけで、世の中は知らないけどな。そういう意味で、サンタクロースは夢を運ぶんだよ」

 おじいさんなのか。
 おばあさんなのか。

 はたまた美しい女なのか、なんてね。

「さて、娘たちがいない間に、今年のサンタクロースはどうするか決めようか」

「そうね。でも、この寒空の下で、泣きながら外にいる娘たちの方が心配じゃない?」

 医者として、と恵美はいたずらっ子のように笑った。
 それを見て、俺は小さく笑う。

「たしかに、虐待を疑われたら困るなあ。なんて」

「バカ言ってないで、娘たちを迎えに行きな。バカ主人」

「はいよ」

 と、俺は笑って玄関の扉を開く。

「ほら、中に入りな。お父ちゃんが怒ったのは、そのうちわかるから。それまで、何で怒ったかを想像してるんだな。双子ちゃんたち」

「「そうぞうってなに?」」

 と、哉恵と靖愁は俺を見ながら、家に入る。

「「よくわかんないんだけど」」

「ま、四歳のお前らにはわかんないだろうな」

「おしえてよ、お父ちゃん」

 と、靖愁は言った。
 哉恵は小さく頷いた。

 俺は二人の頭を撫でながら「それはね」と言う。

「どういうことかな、て考えることだよ。お父ちゃん、何を怒ってるの? て、考えたりね。そういうの、大事だから。生きてく上で」

「「?」」

「ま、お母ちゃんに聞いてみな」

「「うん!!」」

 と、二人は頷いて恵美のところに走った。

 それを見ながら、俺は笑う。

――お母ちゃん。お父ちゃん。

 と、両親のことを思いながら呟く。

――親ってのは、大変だな。

-緑川凛太郎−

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