『カップ麺〜底にある〜』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト26

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『カップ麺〜底にある〜』

 散乱した空いたカップ麺。
 賞味期限が四年前のもの。

 これは、もう片付けられないとかいう話ではない。

「よーしーかーずーくーんー?」

 と、僕は旦那の由一(よしかず)を睨み付ける。

「君、なんで部屋が汚いの? てか、このカップ麺の量何? たしかに、僕は車イスだから、調理場には立てないよ? けどね、料理しているじゃん」

「えっと~。これは、そのですね。理緒(りお)くん。アートだよ、アート」

「へえ? この! ゴミが!! アート!!!」

「イエス」

 あはは、とひきつった笑いをする由一。

 僕が普通の身体なら、思いっきり殴っている。

「由一。片付けをしろ。良いか? ちゃんと、ごみ捨てるんだぞ?」

「ごみじゃないって!!! ちゃんとした芸術作品なの!!!」

「うるせえ!!! くそがき!!! おどれ、黙ってきいとりゃ、ええ加減にせえよ!? 毎日、毎日、何してるんか、思ったら、ごみ溜めよってからに!! 離婚じゃ、ボケ!!!!! したくなきゃ、すべて捨てろ!!!! さもなきゃ、本当にてめえを捨ててやらあ!!!」

「待って、理緒!! まず、お前は黙っていないぞ!! ずっと話しているぞ!!! 訂正するべきではないか!!!」

「黙りよし!!!」

「もうなんの方言か、わからないよ!?」

 と、由一は言った。

 知らん、と僕は言って部屋を出る。

――ったく、あのバカ。

 と、僕は玄関を出て、外に行く。

「ほんと、嫌になる」

 と、呟くと「あれ?」と後ろから声をかけられた。
 振り向くと、そこには平沢さん夫婦がいた。

「あれ、夫婦仲良くお出掛けですか?」

 と、僕が言うと、悠生さんが嬉しそうに笑う。

「そうだよ。やっと、休みが重なってね。三ヶ月ぶりのデートだ。てか、由一は?」

「あー。あのごみ人間は、掃除しています。己を」

「いや、何があったの?」

「……そのですね。あの人、なぜかカップ麺のごみを溜めていて」

「あー。遺伝か」

 と、悠生さんは笑う。

「すごいな、遺伝」

「え? 悠ちゃん、どういうこと?」

「里陽(りょう)ちゃん、きぃくん知らねえか」

「ん? あ、えっと。従兄弟でしょ? キヨシさん、だっけ?」

「そうそう。きぃくんね、彼女のために、とかなんとか言って、ごみで何かプレゼント作ろうとしていたんだよ」

「え、すごい発想だね。キヨシさん」

「そう、すごいんだよ」

 と、悠生さんは笑った。

 キヨシさん、か。
 キヨシさんとは、由一の父親のこと。
 今は、もう死んじゃっているけど。
 由一にかなり似ているらしい。
 見た目とか、不器用なところとか。

――もしかして、由一。

 と、僕は小さく呟く。

「由一、キヨシさんがやったことを、僕にしようとしているんですかね」

「さあね。それは、あいつにしかわからんよ。けど、可能性は高いよ」

「そっか。でも、だとしても、なんか、嫌です」

「まあ、それは俺に言っても仕方がねえよ。理緒」

「そうですね。そうかもしれない」

 由一のこと、心配だしな。
 そろそろ帰ろう。

「えっと、デートのお邪魔をして、すみませんでした。僕、帰りますね」

「おう。気を付けろよ」

「はい!!」

 と、僕は家に帰って、部屋に入る。

「由一、片付いた?」

「あ、えっと。理緒、そのー」

 と、由一は笑う。

 由一の手には、空いたカップ麺。
 そして、セメダイン。

「片付けようとしているんだよお?」

「……セメダイン、いる?」

「いるいる!! めっちゃ、いる!!」

「ねえ、なんで、ガンダム的なものがいるの? 何? あんた、カップ麺で、ガンダム作ろうとしているの? バカなの? 一旦滅びな」

「いやあ、そのー。あっはっはっはっは……は、は、……は」

「何、笑てるん? 本気で、あんた、殺すぞ?」

 少しでも期待した僕がバカだった。

 由一が、バカなのを忘れていた。

「由一!!!! 片せ!!!!!!」

「待って!!! ガンダム!!! ∀ガンダム作らせて!!!」

「黙れ!!!! この、アンポンタン!!!!」

 ある晴れた昼下がり。
 小さな田舎町に、僕の怒鳴り声が響き渡った。

-緑川凛太郎−

ショート小説コンテスト

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