『カップ麺〜上手な使い方〜』白川湊太郎-ショート小説コンテスト26

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『カップ麺〜上手な使い方〜』

隣のデスクからピッと電子音が聞こえた。どうやら先輩が家から持参したキッチンタイマーを使っているようだ。デスクの上にはカップ麺、おそらく3分間を正確に計るためだろう。僕もお昼ごはんを買うためコンビニにでも行こうと思ったとき、急に先輩が大きな声を出した。

「ああ、どうしよう!」
先輩は大急ぎでオフィスの一番奥にあるデスクへと向かった。
「部長すみません、この部分の入力を間違えていました」
数枚の綴じられた書類のうち一枚を指している。
「なんだと! お前はどうして重要な仕事でこんなミスをするんだ!」
どうやら大切な案件でのミスが見つかり報告しにいったらしい。僕たちの上司である部長は怒ったらすごく大声を出すし、何よりもお説教が長い。同じフロアにいる同僚たちはみんなお説教の邪魔にならないよう自然と喋るのを止めていた。
「だいたいお前はいつもやる気が…」
さっそくお説教が始まった。普段の勤務態度について言われている。この流れは長期戦になるぞ…そう思っていたとき、オフィスの中で人一倍大きな音を出す機械があった。

ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピピピピッ、とさっき先輩がスタートさせたキッチンタイマーが大きな音で響いた。
「何の音だ?」
「すみません、僕です」
申し訳なさそうに自分のデスクを指す先輩。
その先には大きな音を立てて鳴るキッチンタイマー、とカップ麺が…
「いいのか?」
「はい。今は部長とのお話の最中ですので」
「そうか…」
ばつが悪そうな顔で尋ねる部長と、真剣な表情をしている先輩。数秒の沈黙が過ぎる中で、デスクを挟んで座っている部長は、その時間に何を考えていたのだろうか。
「もういい、今後は気をつけろよ」
そう言って本日のお説教はあっと言う間に終わった。
「はい、すみませんでした!」
先輩はオフィスの出口へ歩いていく部長へ向かって深く頭を下げていた。

僕は自分のデスクに戻ってきた先輩に声を掛けた。
「今日はお説教が短かったですね」
「だな…お前これ食べていいぞ」
怒られたばかりなのに飄々としている先輩は鳴り続けていたタイマーを止めて、フタが半分だけ開いた状態のカップ麺を置いたままオフィスを出て行った。このタイミングでは部長と鉢合わせるのではないかと少し不安に思った。
タイマーが鳴ってからかなり時間が経っている。先輩は伸びてしまった麺が嫌で新しく作り直しに行ったのだろうか。
そんなことを考えながら、隣のデスクへ移動してフタを開けてみると、カップの中にはお湯が全く入っていなかった。
僕は先輩の真似をしてオフィスの出口に向かって深く頭を下げてから給湯室へと向かった。

-白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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