『初雪〜雪路〜』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト27

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『初雪〜雪路〜』

 初雪は、例年よりも少し遅くて、僕は少し驚いた。

――降るなんて、知らなかった。

 今年は暖冬だと決めつけてしまい、そんなに冬の支度はしていなかった。コートも少し薄手のもので、手袋もしていない。
 これだと、さすがに寒い。

 そう思っていると、隣にいる少し背の低い彼女が「ねえ」と僕を見上げる。

「奈穂(なほ)。初雪だね」

「そうだね」

「……初デートで初雪なんて、なんだか、運命感じる」

「そうだね」

 そんなことねえよ。

 と、心の中で呟いて、彼女から目を放し、前を見る。

「そろそろバレンタインデーだね。どこか行く?」

「うん! 一緒に、スイーツパラダイスに行こうよ!! 隣町の新しくできたカフェテリア。そこにスイーツパラダイスがあるんだって。そこのスイーツは他のものとは違って、見た目はきれいだし。味も絶品なんだってさ!! あたし、楽しみ!! ね!!」

「そうなんだ。僕、あまりそういうの知らないからさ。君が知っていると、とてもありがたいな。ありがとう。じゃあ、そこに行こうか。そして、そこで少し今後の話をしようか」

「うん! て、え? 今後の話?」

「ん? 僕、君とは学生恋愛だけで終わらせよう、て思っていないんだけど。やっぱり、重いかな? だったら、今のうちに――」

 と、僕が言いかけると、彼女は食いぎみに言う。

「そんなことないよ!」

「そう、かな。そう言ってくれて、嬉しいよ。ずっと、重いって振られちゃってさ。君が初めてだ」

 なんて。
 これで何度目だろう。この台詞。

 こういうの信じるなんて、バカだよな。

 本当、見ていてヘドが出る。

 優しい声で。
 甘い言葉でも言えば、すぐに騙されて。

 つまんないの。女って。

「奈穂くん」

 と、彼女は僕に言う。

「私、重いなんて感じないよ! だって、それほど私のこと好きだってことでしょ? 嬉しいよ!!」

「わかってくれて、ありがたいな。好きだよ」

 嘘。嫌いだよ。
 お前みたいな女は。

 大体名前なんて、知らないし。

 見た目もブスだし。
 女の間で可愛いって言われて、調子に乗りやがって。
 僕に釣り合うとでも、思っているのかな。

 まあ、そんなブスなやつにも、接することができる僕って、すごいよな。
 自分で自分を褒め称えたい。

 て、あんまり思っていると、声に出ちゃうから気を付けよう。

「あ、そろそろ時間平気? 親御さん、心配していない?」

「あ、本当だ。ミナ、帰らないと。じゃあね! 奈穂くん!!」

「うん、またね」

 と、僕は笑って彼女を改札口で見送った。

――マジ、疲れる。

 と、ため息を吐き出して、彼女が触れたところを払って、電話をする。

「もしもし、千歳(ちとせ)? 元気にしてる?」

『奈穂? 奈穂なの? ねえ!! 元気にしてるよお? 良い子に待ってたよ。僕!!』

「へえ。さすが、千歳。大好きだよ、愛してる」

 千歳は、僕の幼馴染みの男の子。
 両親がいなくて、天涯孤独な彼の面倒を僕が見ている。

 まあ、元々いたんだけどさ。彼に両親は。

 でも、あまりにもひどい両親で。
 千歳は、両親を殺した。
 本人は、覚えていないけど。

「ねえ、来週のバレンタインデーどうする? 一緒に過ごそうか」

『うん!! ねえ、今、どこにいるの? ねえ、新しい彼女、どんな子?』

「とても気持ちが悪いよ。まだ全然なのに、下の名前にくん付けだよ? ヘドが出るよ」

『へえ、そんな不快な気持ちにさせるやつなんて、許せないな。ねえ、どこにいるの?』

「駅前。今さっき、改札口で別れたんだよ。やっとね」

 と、僕が言うと、千歳は『ありがとう』と呟いて電話を切った。

 このあとのことはわかっている。
 だから、僕は言った。

――残念、彼女。

 僕は、君と一緒に過ごす予定なんて全くない。

 と、小さく笑って、家に向かって歩く。

 少しすると、後ろから千歳がコートを僕に被せる。

「ごめん、遅れたよね。けど、僕は悪くないよ?」

「うん。平気。てか、温かいな、これ」

「そりゃそうだよ」

 千歳はニコッと笑う。

「寒いだろうな、て思ったからね」

「さすがだよ、千歳」

「えへへ、そんな言われるとは思わなかった。風邪引いたら大変だもんね」

「うん」

 ところで、と僕は血だらけの千歳を見る。

「それ、どうしたの?」

「ああ、さっきね。転んじゃってさ」

「まあ、雪降ってるからね。気をつけなよ?」

「ありがとう。奈穂は優しいね」

「そりゃ、お前のことだけを愛しているから」

 と、僕と千歳は一緒に家に向かう。

「ねえ、千歳」

「ん?」

「好きな人と一緒にいるときに、初雪なんてさ、すごくロマンチックだよね」

「……うん、そうだね。僕もそう思うよ」

 ほんと、嫌になるくらい。
 千歳、可愛くて大好き。

――初雪の日の不幸なニュースです――

――昨日、川宮(かわのみや)駅にて――

――十六歳の少女が、電車に飛び降りました――

――そして、少女と思われる死体が――

――今朝川宮駅から徒歩十分ほどの林で発見されました――

――死体は、何十回もの刺された痕跡があり――

――警察は、少女に恨みのある人物の犯行と思い捜査をしています――

−緑川凛太郎−

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