『初雪〜知らないところで〜』白川湊太郎-ショート小説コンテスト27

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『初雪〜知らないところで〜』

「ミートソーススパゲッティをひとつ」
注文をしてからジャケットを脱いだ。
季節は5月。ここ稚内では先月ようやく終雪を迎えたところだった。
稚内が好きだ。かなり寒い地域ではあるが、日本で最も早い初雪が見られる地域であるためとても入っている。
食堂の奥にあるテレビではオーストラリア旅行の特集が放送されていた。日本が春なのに対してシドニーは冬を迎えようとしている。北海道から出たことがない人間の立場から言うと、このようなテレビの影響で重い腰が動くことはなく、地球の反対側まで行きたいと思えなかった。
ぼーっとテレビを見ていると、ナレーションで驚くべきことが告げられた。

「シドニーでは毎年6月になると初雪が観察され…」
私は嫉妬していた。日本の中にしか視野が向けられていなかった自分を恥じた。稚内の早い初雪は、日本で一番なだけであった。北半球と南半球で初雪の早さを競うことなどナンセンスであると頭では理解していたがはずだが、私はどこか焦りを感じていたのだ。自分の知らないところで初雪が行われていると考えもしなかった。

『お待たせしました。ミートソースです』
もしかしたら、空腹がこんなにも焦りを感じていたのかも知れない。そう自分に言い聞かせながら私はパルメザンチーズを手に取り、そして閃いた。
蓋を開けてチーズをかける、かける、かける。
少しだけでは雪には見えないと考えて多めにミートソースが隠れるくらいに。普段食べているときの適量などとうに超えていたが。今日だけは使うべきであると思った。これは焦りにも似た感情であった。
「おい、兄ちゃん。そんなにかけて大丈夫かい?」
通りかかったおじさんが笑いながら尋ねてきたが、私は初雪を降らせる作業に必死だったので、目線をミートソースから反らさないまま黙って頷いた。
「そうか、美味しくなくなっても知らんぞ」
おじさんは呆れた顔をしながら私の席から離れていった。

シドニーでは私の知らないうちに初雪が起こっていたのだ。私だってシドニーでも、稚内でも、この食堂の中でも、通りかかったおじさんも知らないうちに、誰にも知らせず一人で初雪を降らせても良いではないか。
ふと我に返り、このミートソースを今から食べるのだと思い出して少し苦笑いをしたが、私の中ではどこか満足感があった。

−白川湊太郎−

ショート小説コンテスト

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