『電池~ザッピングの日常~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト28

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『電池~ザッピングの日常~』

「なぁ母さん今日の晩飯なんだ?」
と訊きながら、お父さんはリモコンでザッピングをする。
リモコンの調子が先週から悪く、お父さんは何回もソファにたたきつけている。
早く電池を換えれば直るはずなのに、誰かがやるだろうと思って、誰もやらない。

「ところで明(あきら)は受験勉強どうだ?はかどってるか?」お父さんが訊く。
「国語と英語は良い線行くと思う。」僕は応える。
今の返事の仕方は中学受験の面接だと何点だっただろうか。そんなことをふと思ったりする。

次の日、僕が夜中に部屋から出てくると、お母さんがザッピングしていた。
リモコンの調子は相変わらず悪く、お母さんは電池をくるくると回転させてからザッピングを再開する。
「あら頑張ってるのね。なんか夜食でも作ろうか?」お母さんが訊く。
「いいよ。ゆっくりしといて。ちょっと水が飲みたくてさ。」僕は応える。
親に気を遣って生きている子どもって全体の何パーセントなんだろうか。そんなことをふと思ったりする。

僕は次の日、100均でよく分からないメーカーの単3電池を購入し、リモコンに装着した。
誰かがやってくれるだろうとか、誰かが優しくしてくれるだろうとか、そんな期待は捨てた僕なりの意思表示だった。
誰も僕の心の中なんて分かっていない。中学受験なんてしたくない。

期待が当たり前のようになった時、通常の生活で呼吸がしづらくなった。
叩いたり、回されたりして動く僕は、早く交換してほしいと願うばかりだった。

それでも意思を持ち、頑張るために、僕はリモコンの電池を換えた。
お父さんやお母さんはきっとそれが当たり前かのように日常を暮らすのだろう。

どこに捨てていいか分からない電池を勉強机にならべ、そんなことをふと思ったりする。

-黒川洸太郎−

ショート小説コンテスト

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