『ゴミ箱〜言葉のゴミ箱〜』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト29

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『ゴミ箱〜言葉のゴミ箱〜』

 僕の家には、たくさんのゴミ箱がある。
 その一つ一つが、なんのためにあるのか、なんて。
 僕は知らない。

 満杯になった紅い、赤いゴミ箱を、僕は外に放る。

 満杯になってしまっては、もう価値がないから。

 そう言うと、奈穂は笑って、僕に言う。

「それはとても良いと思うよ。でも、きっと警察とかに怒られちゃうね」

「だったら、警察ごと捨てよう。僕には不必要なものだから」

 ゴミ箱の中身は、何もない。
 当たり前だ。

 そのゴミ箱には、言葉を捨てているんだから。

 不必要な僕の感情を吐き出す言葉は、不必要だ。

「ねえ、奈穂」

「何?」

「明日は、ごみ収集らしいね。どのごみを捨てようか」

 僕は、奈穂に部屋を見せる。

 黄色いゴミ箱には、いつも騒がしい隣人。規則規則と僕を叱る大家。
 このゴミ箱には、騒がしい人を捨てている。
 捨てる理由? そんなの決まっているじゃないか。不必要だから。

 青いゴミ箱には、泣いている子ども。鳴いている犬。

 紫色のゴミ箱には、何を捨てていたっけ。
 こんなに溢れてしまって。
 僕としたことが。捨てるのを忘れるなんて。

「千歳。この紫のは何があるのかな。そして、僕は見ても平気?」

「良いよ。てか、僕も何を捨てたか、忘れちゃった」

「千歳、たまにあるよね。何を捨てたか忘れちゃうの」

「ごめんね。だって、所詮ごみだもん。覚えていなくても良いかな、て」

「うん、そうだね」

 と、会話をしながら、僕たちはゴミ箱を覗く。

 そこにあったのは、教室でいつも僕をいじめてくる男子。
 僕に金を脅して奪おうとした女子。
 奈穂が好きだから近づくな、と僕に言ってきた上級生。
 僕を好きだと言ったけど、本当は奈穂に近づきたかっただけの女子。
 僕のことをごみだと言った男子。
 僕をクズで下劣な人間だ、と言った教師。

「はは、忘れてた。今、出したら、何を言われるかな」

 と、僕は奈穂を見る。
 奈穂は、無表情でゴミ箱を見る。

――どうして、僕を見ないんだろう。

 奈穂は、いつも僕ではない人を見る。
 ああ、そんな目、なければ良いのに。

 僕だけを見てくれる奈穂になってくれないかな。

「ねえ、奈穂。聞いて」

「何?」

「奈穂なら、どのゴミ箱が良い? 赤? 青? 黄色? 紫? それとも、僕?」

「そんなの、千歳に決まってるじゃないか。それに、もう入っているようなものだよ」

「もう、奈穂ったら」

 と、僕は笑う。

 奈穂は、優しい。
 きっと、僕がそう言ってほしいっていう顔をしたから、言ってくれた。

 あーあ。
 今、写真あったら、撮って、奈穂が好きって言うブスたちに売って、金をもらったのに。
 まあ、他にもあるから良いや。

 奈穂って、写真一枚でもかなりの値がつくんだよ。

 イケメンで、文武両道。公私混同をしない。
 いつも真面目な顔をしているからね。
 笑った顔とか、そういうの珍しいんだよ。
 だからね、たくさん金になる。

「ね、奈穂。どうしよう」

「うーん。とりあえず、人だというのをバレないように、ぐちゃぐちゃにしてから、袋をきっちり閉めて、捨てれば良いんじゃない?」

「そうだね。そうしよう」

 僕はそう言って、台所から包丁を取り出す。

「奈穂は、危ないから、別の部屋にいてね。何かで間違って、奈穂に包丁がいったら、僕、どうすれば良いかわからないから」

「うん。わかった」

 奈穂は頷いて、隣の部屋に行った。

――さて、どれから殺ろうかな。

ー緑川凛太郎ー

ショート小説コンテスト

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