『床屋〜截断〜』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト31

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『床屋〜截断〜』

 髪は女の命と云う。
 私は男だから、それはよく知らないけれど、女であるシャルがそう言うのできっとそうなのだろう。
 なら、女は髪を切ったら死ぬのか、と訊いたらシャルは不思議そうに私を見る。

「何を言っているじゃん? 心臓とか止まったら、死ぬに決まっているじゃん。髪を切ったくらいで死にはしないじゃん?」

「そうですね。変なことを聞いてしまいました」

 ところで、と私はシャルの髪を指で鋤きながら言う。

「おチビちゃん、そろそろ髪を切りますか」

「チビって言うなじゃんっ! ま、その、よろしくじゃん。ばっさりいって良いじゃん」

「ええ、では」

 ツインテールをほどき、櫛で解かす。
 すう、と通る髪は綺麗だった。

「ねえ、セルダローム」

 シャルが、まっすぐ前を見ながら話しかける。

「ここの《とこや》て、セルダロームのじゃん?」

「いえ。空いているので、借りてますよ。勝手に」

「え、それダメじゃん!」

「良いんですよ。別に」

 そう言うと、シャルは「ダメじゃん」と小さく言う。

「てか、その、セルダロームは《美容師》じゃん?」

「いいえ。でも、髪は普通に切れますよ」

 そう言って、切り始める。

「女性の散髪は慣れています。ツインテールはできるような長さにしますか?」

「うん。ツインテールしないと、あたしって感じがしないじゃん」

「確かに」

 私は笑って、髪を切る。

「不思議ですよね。人は」

「え?」

「思いを断ち切る、そういうことで切る人がいます。髪を切って、断ち切れるものなのでしょうか」

「わかんないじゃん」

「まあ、おチビちゃんにはわかりませんよね」

「あたしじゃなくても、わからないじゃん」

「ふむ」

 大体は切って、後は揃える。
 十は切ったな。大体。

「そういうものなんですかね」

「そうじゃん?」

「ふむ」

 綺麗に揃えて、ドライヤーで軽く乾かす。
 長かったときも可愛らしくて素敵だったが、切ったら切ったでまた可愛らしくなった。
 女性というのは不思議なものだ。
 化粧や髪型で、美しくなる。

「さて、終わりましたよ。お嬢様?」

「その言い方、やめてじゃん」

「クフハハハ」

「んもう、バカにしやがってじゃん」

 シャルはぴょんっと椅子から降りる。

「セルダロームは切らないじゃん?」

「ああ、私は切りませんよ」

「でも、うっとーしーじゃん? そんな長くて」

「良いんです。それに、髪を切るって、思いを断ち切るんでしょ?」

「まあ、うん」

「尚更、私は切りません。忘れたくない――断ち切りたくない思いがありますから」

 ニコッと笑うと、シャルは小首を傾げる。

「ふーん」

「安心してください。昔の女とかではありませんから」

 私が断ち切りたくないのは父親のことだ。
 父親のせいで、母親は死んだ。
 私がこんなに苦しむのは、父親のせい。
 なら、それを断ち切れば楽になるのか、と言われるとそうではない。

 今、どこにいるかわからない奴を見つけ出し、問い質して殺す。

「復讐の思いは断ち切りたくないものですよ」

 特に、それが身内だと。
 余計そうだ。

 シャル、君はそれを知らないまま生きていけるだろう。
 知らないなら、知らないままが良い。

 復讐なんてものはね。

-緑川凛太郎-

ショート小説コンテスト

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