『床屋〜私達の行く末〜』白川湊太郎-ショート小説コンテスト31

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『床屋〜私達の行く末〜』

床が黒く染まっている。先程まで私の頭から生えていた髪の毛だ。だが今は私から切り離されており、床に散らばって存在している。これらは今でも私の身体の一部であるのだろうか。

「髭を剃る前に髪の毛持ってくね、お兄ちゃんごめんね~」
パートの女性が箒と塵取りを持って床に落ちた髪の毛を集めていった。
私の一部である髪の毛が塵取りの中へ吸い込まれていく。
「こっちもごめんね~」
女性は隣の席に落ちている髪の毛も集めていった。私の後に来た中年男性の髪の毛である。白いシャツの襟元や裾は黒く汚れ、隣に座る私のところまで異臭が漂っている。その明らかに不潔な男性の油っぽくベトベトした髪の毛も塵取りの中に吸い込まれていく。
今、あの塵取りの中には私と隣の男性、二人分の髪の毛が入っている。私の身体の一部と男性の身体の一部が一緒くたにされた瞬間を確認して、なんだが不快な気持ちになった。
私はその髪の毛たちの行く先を知っている。事業用の可燃ゴミの袋へと入れられるのだ。
そこにはこの数日に来た客の髪の毛が入っている。今の隣にいる不潔な中年男性だけではない、この数日にやってきた顔も知らない客達の髪の毛が混ざっている。そして私の髪の毛もその海に加わるのだ。
切り離されていると言えども、私と不特定多数の人間が混ざり合っているところを想像すると気分が悪かった。
さらに言うと私の髪の毛も、私自身も、最期に燃やされるというのは同じであった。

「はい、顔剃り終わりましたよ」
椅子が起こされて、持たされていた器は理容師に回収された。器の中にはクリーム混じりの私の髭が入っている。
「これ、どうなるんです?」
「え、捨てちゃうよ? 欲しいの?」
「いえ…」
理容師は私のことを変わり者だと思ったようで笑っていた。
私は自分の髪の毛が他と一緒にされることを不快に思っていたはずなのに、剃り終えた髭を欲しいと答えなかった自分を笑った。

髭は排水溝に流されるのだろうか、一人で消えていく未来を想像すると少しだけ同情した。

-白川湊太郎-

ショート小説コンテスト

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