『森~秘密の友達~』緑川凛太郎郎-ショート小説コンテスト32

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『森~秘密の友達~』

「母様、それでは行ってきますね!」

 息子の文人(あやと)は、妻にそう言って俺の手を引く。

「父様! 早く行かないと、みんな、どこかに行ってしまいます!!」

「はいはい」

 文人に引かれて、俺は家の裏にある森の方へ歩いて行った。

 俺の住む町は、田舎である。
 海と山と森がある。
 山と森は、似たようなものだがな。

 まあ、そんなことは置いておいてだ。
 文人は、俺と妻の間のたった一人の子どもだ。
 髪はサラサラしていて、綺麗な黒髪。
 その黒髪は背中まであり、見た目は女性だ。

――全く、飽きたりしないよな。

 森で、昆虫採集に勤しむ文人を見て、小さく笑う。

「文人、あまり奥に行くなよ? こわーい、お化けが出ちゃうぞ~」

「そんなことないですっ! 出ても、父様がやっつけちゃうんだから!!」

 ふんっ、と言って文人は小さな手で昆虫を籠に入れていった。

 しばらくして、お昼頃になり。
 俺と文人は家に戻ろうとした。
 が、少し迷子になってしまった。

「父様、どんどん家から離れているような気がします」

「うーん。俺もそう思う」

 と言いながら、俺は文人の手を引く。

「ん、あそこに小屋が見える」

「父様、誰かの家ですか?」

「さあな。とりあえず、行ってみよう。何かわかるかもしれん」

 そう言って、俺は小屋に向かって歩いた。

 その小屋は、人が一人もいない。不思議な小屋だった。
 とりあえず、椅子に文人を座らせ。
 俺は電話か何かないか、見て回った。
 すると、人ではない何か――あやかしが、俺に優しく

『貴方の家は、ここから東に十メートル進むとある。早く子を連れ、行きなさい』

 と、声をかけてきた。
 あやかしが、人にそう声をかけるのは珍しかったから、俺は「なぜ?」と訊く。

「あやかしが、人に優しくするなんて…」

『悪い人は苦手さ。でも、貴方は優しくて、良き人と思う。それに、あの子は私の弟の友人でもあるのさ。優しくする、というか親切にするのは当たり前だよ』

「弟……?」

『子は何も話しておらんのか? それなら結構だ。まあ、とりあえず行きなさい』

「? ああ、ありがとな」

 俺は頷いて、文人の元へ戻った。

「文人」

 と、声をかけようとして、俺はやめる。
 文人は、誰かと話しているようだった。
 あまり見せない笑顔で、楽しそうに話している。
 その姿を見て、俺は安心した。

 文人はあまり人付き合いが得意ではなさそうだったし。
 周りも、なぜか文人に対して壁を作っている。
 外から帰ってきても、つまらなさそうだった。
 そんな文人が笑って会話をしている。
 親として、こんなに嬉しいことはなかった。

 少しして、文人が俺に気づき「またね」とその相手に笑って、俺のところに来た。

「父様っ! 何か、ありましたか!?」

「ああ、あったよ。ここから東に十メートルだそうだ」

「? おうちがですか?」

「ああ」

 そう頷いて、文人の手を引いて歩いた。

 帰り道、俺は気になって文人に声をかける。

「文人、友達できたのか?」

「うんっ」

「へえ。知らなかった。どんな子?」

「んーっとねえ、秘密! 秘密にしておいてって言われたので、秘密なのです!」

 えへへ、と笑った文人は今まで見たどんなものよりも、可愛らしかった。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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