『食堂~Aランチ~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト34

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『食堂~Aランチ~』

 最悪! 弁当を忘れた!

 俺は頭を抱え、所持金を確認する。
 持っているのは、三千円。
 帰りに趣味で集めている漫画の新刊と、小説の新刊を買うために持ってきた。

――漫画は予約しているから、明日で良いだろう。

 だが、問題は小説。
 なかなか続刊が出ず、俺はかなり待っていた。

「小説は、通常と限定。会わして、二千五百円。だから、五百円以内の物を買おう」

 俺はそう言って、初めて学食に行った。

 この学校に学食があることを知ったのは昨日。
 三つ上の川原(かわはら)さんが教えてくれたのだ。
 川原さんは、何かと俺に優しくしてくれる良き先輩。
 同じ理科教師ということもあり、話もよく合う。

「ったく、学食なんて知るかよ」

 と、呟いて券売機の前に立つ。

「えっと、Aランチ?」

 なんだそれは。
 セットというものか?
 マジで意味がわからん。
 てか、買い方がわからない。

「殴れば出てくるかな」

 そう言って、券売機に殴りかかると「佐野(さの)さん」と呼ばれた。
 振り返ると、そこには川原さんがいた。

「あ、どうも」

 と、挨拶をすると川原さんは笑って券売機を操作した。
 そして、食券を俺に渡す。

「Aランチは、安くて早くて美味いよ」

「へえ」

「てか、券売機を殴って食券を出そうなんて、初めて見たわ」

「そうですかね」

 俺はそう言いながら食券を購買部に渡し、Aランチをもらう。
 Aランチの内容は和食。
 白飯、味噌汁(アサリ)、サンマの塩焼き、お新香。
 普通に美味しそうだった。

 川原さんもAランチを買い、俺の隣に座った。

「川原さんって、いつも学食?」

 そう訊くと、川原さんは笑って「まあね」と言う。

「妹が作ろうとはしているんだが、あいつは不器用だからね。包丁なんて渡せんのよ」

「へえ。妹さんがいるんですね」

「まあね」

「うちは、弟がいるんですけど。俺がいつも弁当作るんですよ」

「へえ。それはまたなんで?」

「母は家事がとても苦手なんです。包丁を使わずに、手で切ろうとしますし……」

「手刀?」

「ええ」

 母は、というか俺の両親は元ヤンである。
 そう言う俺も、弟も元ヤンだったりする。
 口よりも手が先に出る、そんな家族だ。

――周りからは、かなり恐れられているがな。

 はあ、とため息を吐くと、川原さんが小さく吹き出して「良いね」と笑って、俺を見る。

「とても楽しそうだ」

「え? あ、うん」

 川原さんの笑顔を見て。

――可愛いな、この人。

 と思い、少しだけドキッとしたのは気のせいだろう。
 俺はそう思って、十分遅れで授業をしに三年六組の教室に入った。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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