『運動会~スタート~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト35

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『運動会~スタート~』

そこはサッカー部が壁当てのために使う黒い壁で日陰になっている。僕はその壁の脇に穴を掘り、うつ伏せになり顔だけ出して運動会を見ている。
横には西田という不登校を繰り返す奴もいる。特に話すという訳でもなく、ただ二人で運動会というイベントを眺めている。

先日クラスで種目決めのホームルームがあったのだが、自分がなんの競技にあたったのかすら興味が無い。
僕が欠席したところで何の支障もなく、あいつどこで何をしてるんだと、気に留める人もいない。

4レーンが空になった状態の徒競走が何回かあったので、僕以外にも運動会というイベントに参加できない人が居る。
そこに仲間意識を持つでもなく、ただそうゆう人も統計的にいるよねと独りで考えている。

あんな暑いところに座って誰の応援をして盛り上がって、何が楽しいのかが分からない。
先生たちもこんなところでサボっている生徒に注意できないなんて腐っている。
生徒含め先生の何人かと目が合ったような気もするが、関わらないようにしているのだろう。

西田はこの情景をみて何を思っているのだろう。
土の冷たさが心地よくて、風が吹くとなんとも気持ちがいい。

組み体操が始まっても、騎馬戦が始まっても、誰かが居なくても何の支障もない競技たち。
結局なんにも変わらない。僕の存在なんてそんなものであり、これが僕でなくてもなにかが変わるのだろうか。

小さめの石に大きめの石を当ててはじき飛ばすと、西田がその小さめの石に大きめの石を当てようとして外れた。
僕は西田に目を合わせることもしない。笑いかけてきたら、それはそれで鬱陶しいからだ。

よーい、、、パン!
スタートという考え方に追いつかない。

今ここにいる環境は居心地が良い。
争いもなく、平穏で、刺激も無く、気持ちの良い風だけが吹く。
かといって、彼らが戦っているとも思えない。
戦って、スタートを切って、よーい、パン。

西田が今度は小さな石に当てた。小さくパンっと音が鳴る。
足が砂に埋まっていて僕はスタートを切れない。
少し動かしただけで崩れるような砂なのに、僕はその砂すらも動かせない。

これが全て終わったら僕は動かせるのだろう。
ということで、終わりを待つ。
僕はスタートを切らずに終わりを待つことにした。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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