『信号~点滅~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト36

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『信号~点滅~』

「かーわーはーらーさーーーーーん」
 俺は先輩の川原さんに声をかける。
「きーいーてーまーすーーーー?」
「煩いですよ、佐野さん」
「川原さんって、童貞かって訊いてるのに答えないんだもん」
「何で答えなきゃいけないの」
「えー、じゃあ。セッ*スした!?」
「答えません」
「あー! してないんだ! してないんですね!! ハッハッハッハッハッ」
「うるせえって、あんた!!」
 川原さんが怒ったところで、信号が青になった。
 俺は隣でイライラしている川原さんに「ねえねえ」と言う。
「怒ってます?」
「ウザったいです。佐野さん」
「え、もうさ。川原さんって二十半ばだよね。それで、まだ童貞って、魔法使いになるんですか」
「佐野さん、マジでうるさい」
 大体ねえ、と川原さんは俺を睨む。
「あんたが『信号って武器じゃないの!? あれ、使い勝手が良いよ!』とか言うし『出張先までの道、わからないから。舎弟に行かせようと思う』とか言うから、俺が一緒に付いていってあげてるんですよ!? 俺も、その方向だから!!」
「チッ。もう少し、若者の遊びに付き合ってくれても良いじゃないか」
「若者がみんなあんたと同じだったら、日本終わりだわ」
「えー!? 俺、カリスマって呼ばれてるし!! みんなに慕われていますよ!?」
「いやいや、教師なのにルールわかってないとか。学校まで特攻服で来るとか。学校内に舎弟がいるとか、色々と可笑しいですし。あんたの慕われているって、それはあんたが組長だからでしょ?」
「組長だなんて、恥ずかしいし。照れるわ」
 アハハ、と俺は川原さんの背中を叩く。
「兄貴って呼んでよ!」
「いってえよ、佐野さん。力加減ってできないの!?」
「したら、相手に負けちゃいますよ」
「俺はあんたの敵ですか!」
「いえ! とても良い男だと思います! 鍛えれば、漢になるよ!!」
「うるさいっ!!!」
 川原さんは怒鳴り、ふと目の前の信号機を見る。
「あ……」
 青信号は点滅し、注意を促していた。
 俺も信号を見て「あ」と言う。
「どうしましょうか、川原さん」
「完全に遅刻のような気がします」
「俺、知ーらねっ」
「あんたが馬鹿だから、遅れたんだわ」
「あ! 俺、みんなの中でかなり優秀だったよ!?」
「あんたのみんなは、ヤンキーだろ? その中で競うなや」
「俺、大学決まったとき、みんな凄いって胴上げしてくれた」
「可笑しくない? それ」
 はあ、と川原さんはため息を吐き、信号機を見て時計を確認する。
「十時半。向こうには十一時だよね」
「そうっすね! 川原パイセン」
「急に後輩感を出すな」
「おっす!」
「ふざけないで」
 川原さんは、赤信号を見ながら俺に言う。
「青になったら、ダッシュな。佐野さんはこの道を真っ直ぐ。俺も途中まで真っ直ぐだけど、左に曲がるから」
「わかりやした」
「わかってないでしょ」
「安心してください。いざとなったら、子犬を拾っていたと言います!」
「馬鹿なの? それで許されると思っているの?」
 はあ、と川原さんがため息を吐き出したとき。
 信号は赤から青になった。
「よし、行くぞ」
「オーケー!」
 俺と川原さんは、全力疾走して、出張先にそれぞれ向かった。

 本当は、道はわかっていたし。
 一人でも余裕で行けたけど。
 何となく、川原さんといたくて地味に嘘を吐いたのは。
 きっと、川原さんは怒るから黙っていよう。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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