『キャンプ~夏の夜~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト37

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『キャンプ~夏の夜~』

 高校生の時に、恋をした男の子の話をしよう。
 彼は、同い年だけど大人っぽくて。
 しっかり者で、紳士的な人。
 目が悪いらしくて、学校に許可を得てサングラスをしている。
 チラリと見たことがあるけど、彼の目は左右で色が異なっていた。
 最初は気持ち悪い、て思ったけど。でも、綺麗だったな、と思った。
 全然見せてくれないし、何だか嫌そうだし。
 嫌なことはしてはいけないって、母が話していたからな。
 私は彼の目には、あまり突っ込んだりしないようにしようと決めた。

 彼には、同い年の従兄弟がいる。
 それが、もう彼と双子のように同じで。
 似ているとかじゃなくて、本当に同じ。
 従兄弟の方は、人気者で。
 女子も男子も、彼を慕っていた。
 まあ、私はそんなにではなかったけど。
 私は彼の方が素晴らしいと思っていたし、今でも思う。

 私と彼は、天文部に所属していた。
 彼は一年しかいなかったけど。
 あ、別に私とか虐めたわけじゃない!
 運動とか、得意だったからね。彼は。
 そっちに引き抜かれたの。

 その天文部で、夏にキャンプがあった。
 私はキャンプが初めてだったし、女子が私しかいないっていうのも初めてだった。
 テントは男女別で、て部長が言って。
 私は一人、テントにいた。
 男子は男子で、遊ぶらしく。
 私も混ざりたかったけど、何だかダメみたいで。
 正直、もうキャンプなんて行きたくないし、つまらないって思った。
 でも。
 でもさ。
 そのとき、彼が「大丈夫?」て声をかけてくれたんだ。
 彼、男子のところから離れて。
 私が心配で、来てくれたみたいでさ。
 とても嬉しかった。

「・・・引馬(ひくま)くんは、男子の方にいなくて良いの?」
「良いよ。沼津(ぬまづ)さん、一人っていうのが心配だしね」
「・・・ありがと」
「礼を言うようなことじゃないさ。好きな女の子が、一人になったらチャンスって思うのも、男だしな」
 ニコッと彼――引馬佑司(ゆうじ)くんは、笑った。
「え、好きな女の子?」
 私は驚いて、引馬くんを見る。
「わ、私。馬鹿力のゴリラ女だけど!? ブスだし、性格悪いよ!?」
「奇遇だな、俺も馬鹿力だし、ゴリラだ。ブスだし、性格悪いよ」
「そんなことないよ! 引馬くん、優しいよ! みんなが帰ったあと、掃除とかして。壊れた机直したり、破れたカーテン直したり。性格悪かったりしたら、そんなのしないって! あと、引馬くんはカッコいいよ!!!」
 私が必死になって、引馬くんに言うと。
 彼はクスッと笑って、私を見る。
「俺のことをそういう風に見て、話してくれる女の子が性格悪いわけないよ。あと、沼津さんは下の名前の麗子(れいこ)の通り、綺麗な人だよ」
「え・・・」
「沼津さん、もっと自信持ちなよ。君は、とても美しい人だ」
 引馬くんは私にそう言うと、私のテントから出ていった。

 ほんの少し、火照って。
 ドキドキする胸を押さえながら。
 私は、小さく笑う。
(ああ、好きだな)
 引馬くんは、やはり優しくてかっこよくて良い人だ。
「好きって、こういうことかな」
 と、呟いたあと。
 引馬くんが、私のテントに戻ってきた。
「沼津さん、あのさ」
 引馬くんは、少し緊張したような感じで言う。
「誕生日、おめでとう」
「え?」
「八月八日。君の誕生日だろ?」
「う、うん」
「迷惑じゃなかったら、受け取ってほしい」
 引馬くんはそう言って、私に小包を渡す。
「女の子が、何が好きとかわからなくってさ。でも、君は星が好きだろうから」
「うん。好き、だよ」
「俺なりに選んでみた」
「開けて見ても良い?」
「ああ、勿論。てか、うざいよな。いや、もう変態かよって自分でも思う」
「・・・そんなことない」
 私は小包の中を見た。
 そこには、小さな星の集まりの髪飾りがあった。
「綺麗・・・」
「・・・うん」
「これ、何て言う星?」
「ミアプラキドゥス。八月八日の誕生星」
「・・・よく、こんなのあったね。てか、女の子にここまでする?」
「あ、嫌だったら捨てて!」
「ううん。嫌じゃないよ」
 だって、と私は引馬くんを見て、ニコッと笑う。
「好きな男の子から貰ったんだよ? どんなものでも、女の子は喜んじゃうんだから」
「・・・え?」
「引馬くん、あのさ――」
 私が言いかけると、引馬くんは慌てて「ストップ!」と言う。
「俺から良いですか」
「勿論っ」
「好きです。初めて会ったときから、一目惚れでした。もし、こんな俺で良かったら付き合ってくれませんか?」
「ええ、勿論です!」
 私は笑って、引馬くんを抱きしめた。
 引馬くんは慌てていたけど、優しく私を抱きしめてくれた。
 彼の手は大きくて、優しくて。
(ああ、好きだ)
 て、心の底から思った。

 結局、引馬くんとは一年半付き合った。
 私が親の仕事の都合で、引っ越すことになったから。
 っていうのは、表向きで。
 引馬くんには知られたけど、私は高校一年生の頃からずっとギターの弾き語りを路上でやっていた。引っ越すのは、その前に名前を少しだけ知っている事務所の人が、私をスカウトしたから。
 引馬くんには、その事を相談した。
 私は彼も一緒に、と思って言ったら。
「凄いね! 麗子の歌は好きだしさ。東京でも、やっていけると思うよ」
 と、言って、彼は私の背中を押した。
 応援している、と。
「俺はここにいる。ここで、君が成功したり失敗したりして、戻ってくるのを待ってるよ」
「佑司・・・」
「麗子、本当は君の傍にいて、君を応援したいけどさ。君、一人で掴んだチャンスだ。一人でチャレンジしてみてほしい」
「・・・うん」
 その言葉が、彼らしくて。
 彼の本音みたいで。
 一緒に行こう、て言えなくて。
 高校三年生になる頃。
 私は一人、東京に行った。

 結果は、うまくいった。
 プロとして、舞台に立って。
 今は旦那と二人の娘に囲まれて。
 私は幸せに暮らしている。
 引馬くんとは、たまに連絡をしている。
 旦那と引馬くんは、学生時代の友人らしくて。
 引馬くんとの連絡なら、別に良いという。
 たまに彼は遊びに来て、娘の面倒を見てくれた。
 今は長女は成人してるし、次女は今年成人する。
 二人も引馬くんのことが好きらしい。
――ああ、全く。
 私は引馬くんのことを思いながら、呟く。
「特別だな、あなたは」

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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