『望遠鏡~知識の伝達~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト38

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『望遠鏡~知識の伝達~』

祖父が死んで半年が経った。
言葉が出ないくらいに泣いていた僕も、今や大学の仲間たちと岩手にツーリング旅行をしている。

家が狭いせいで祖父と寝室が一緒だった僕は特に祖父のお気に入りで、いろいろと世話をかけてもらった。
高校の頃に自分の部屋を持ちたいと言った時の祖父の悲しそうな顔が忘れられなくて、寝るときだけは祖父の横に布団を敷いてしばらくは寝ていた。でも、いつからかそれも面倒で自分のソファベッドで寝るようになったっけ。

奥入瀬渓流の近くにバイクを止め、苔の絨毯を仲間たちと歩いていく。
そこはシシガミでも出てきそうな神秘さにあふれ、夏とは思えないくらいに涼しかった。
仲間がどんどんと渓流の方へ歩いて行くので付いていくと、透き通った水面には木々が映っていた。
渓流に手を当てると心地よくて、そういえば祖父も川を見ると手を当てる癖があったなぁと思いだす。

その後は美味い飯を食って、ゴーカートなんかにも乗ったりして、
今を満喫した。
旅館に着くとみんながそれぞれ漫才を考えて披露するM1グランプリが始まった。
お酒を飲みながらゲラゲラと笑い、とても充実していた。

そろそろ風呂でも入ろうかと誰かが切り出し、大浴場へと向かう。
旅館と大浴場は外の渡り廊下で繋がっており、そのちょうど中央に天体望遠鏡が置いてあった。

ふと夜空を見上げると酔いが醒めるほどに星がすごくきれいだった。
誰かが天体望遠鏡を覗き込む。
「なんだこれ。真っ暗じゃん。」
「俺にも見せて。ほんとだ。壊れてるよ。これ。」と言っている。
僕はゆっくりと近寄り、
「そこじゃねぇよ。こっちの小さい方を覗くんだよ」と言い、夜空を覗き込んだ。
そこには都会では絶対に見られない光景が広がっており、空の奥深くが見えたようで息を飲んだ。

仲間たちが続々と覗き込み、すげぇすげぇとはしゃいでいる。
祖父が小さい頃に買ってくれた天体望遠鏡の知識が僕に受け継がれている。

それが巡り巡って、僕は素晴らしい世界を観ることになった。
『知識の伝達』は死なない。それが祖父の生きた意味になる。
だから僕も生きて伝えようと思う。『生きた』という事象に意味を与えるために。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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