『映画~メモリー~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト39

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『映画~メモリー~』

「紀治(としはる)、見てみろ。この大画面に、たっっくさん夢が映る。静かに、黙って見てろよ」
 父さんは僕に言う。
「感動を口に出すのは、家でやるものだ。外で言ったら、他の人が困ってしまうからね」
「そうなの?」
「ああ、紀治の好きなアニメの最新話を、急に言われたら吃驚しちゃうし。嫌だろ?」
「うん」
「それと一緒さ。ずっと待っていた人だっているんだ。だから、静かにしておこうな」
「うんっ」
 僕は頷き、目の前の大画面を見る。
 左には父さん。右には母さん。母さんのお腹には僕の妹がいる。
 この前、妹だってわかった。
 この前って、二週間前とかそのくらい。
――赤ちゃんも見えていたりするのかな。
 と、考えながら僕は映画を見た。
 映画は、アメリカのSF映画で。
 父さんは、この映画を楽しみにしていたらしい。
 僕には、まだわからなかったけど。
 見ていて、何となく楽しかった。

「んで、紀治。お前、またその映画を見るの?」
 僕の幼馴染みで、親友で、恋人の文人(あやと)くんはため息混じりに言う。
「それ、三十年前のやつじゃん」
「そうだよ。良いじゃん。好きなんだもん」
「お前、毎年それを見るよな。何? ルーチンなの?」
「そんなところかな」
 僕は町にある小さな映画館に入る。
 僕の次に文人くんも入る。
「三十年も、ずっとやってるの?」
「うーん。二十年とかかなあ」
「あ?」
 文人くんは不思議そうに僕を見る。
「十年、どうした」
「んー、これさ家族で見た映画なんだ。最初で最後のね」
「……え?」
「父さん、これが公開されるのをずっと楽しみにしていたみたいでさ」
「…………」
「家族を失ってから、しばらくは見れなかった。忘れようとしたのかもしれない。自分の家族なのにね」
 僕が自嘲気味に笑うと、文人くんは悲しそうに「そう」と言う。
「てっきり、彼女にでもフラれたのかな、と」
「あはは。僕は、ずっと文人くんに惚れていたから。他に彼女とかってあり得ないよ」
「………うるせえ」
 文人くんは照れ笑いをして、僕の手を引く。
「早く座ろうぜ。良い席、取られるぞ」
「うん」
 僕は頷いて、館内に入った。

 三十年前のあの日と同じ。
 画面がよく見える席に座り、映画を見る。
 あの日と違うのは、隣にいるのが恋人だということ。

 目の前に広がる映像は変わらないのに。
 毎年同じものを見ているのに。
 今日は、不思議だ。
 あの日を思い出して、涙が出る。
「父さん、母さん……」
 もう会えないって、わかっていても。
 どこかで会えるような気がして。
 ぽたぽたと涙を流す僕に、優しく文人くんは「紀治」と声をかける。
「泣くの早いだろ、お前」
「うるさい……」
「ったく、仕様(しお)あねな」
 文人くんは笑って、僕の上着をかける。
「こいで、涙を隠(か)きっおきなさい」
「え?」
「映画が始(はい)まっまで。うんっと、思(お)も存分、感傷に浸ってな。始まったら、声をかけてあぐっからさ」
「っ」
 僕は文人くんにかけられた上着で顔を隠して泣いた。

 始まる頃。
 文人くんは「紀治」と僕に声をかける。
「誕生日(うんまれび)、おめでとう。生(うん)まれっきてくれて。俺(おい)と出逢(お)てくれてあいがと」
「うんっ、こっちこそありがと。文人くん」
 三十四回目の誕生日。
 それは、いつもと雰囲気が違くて。
 ちょっとドキドキするけど。
 今までよりも、楽しくて好きなものになった。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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