『映画~断定的な幸せ~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト39

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『映画~断定的な幸せ~』

「おい吾朗!いくぞ!」
「どこに?」
「シネマに決まってるやないか。3分で用意せい。シンネンマーや。」
父は思い立ったらすぐ行動の人だ。僕がズボンを履いて携帯と財布をポケットに入れている間に、父はもう玄関先に車を回していた。
「映画なんじからなん?」僕は父に訊くと
「いや、知らん」と応える。父らしいなとくすっと笑い、
「じゃあなんの映画を観るん?」と訊くと
「なんかCMでやっとったんや。『死ぬ前にする人生のやりたいこと』やったかなんやったか。」と大きな声で応える。
「『人生最後の日にやりたいこと』でしょ。時間調べてみるよ。」とスマホで上映時間を調べる。

「人生最後の日を題材にするなんか中々画期的やな!人の人生の結末なんか想像もつかん!」と自信満々で言うが、
「よくある題材だよ。年に一回は似たようなのが出てるよ。」と教えてあげた。でも父は
「ノンフィクションってのが良いな。人生はノンフィクションや。ドキュメンタリーや。そんな映画あんまり無い」とまた自信満々に言っていたが、面倒なので僕はつっこまなかった。

「今やりはじめたばっかやから、次の上映は2時間後になってるよ。」
「ほんまかいな。なら行ってもめちゃめちゃ時間あるやんけ。」と僕に言ってくる。
「どーすんの?」と訊くと、
「茶ぁいこ!タバコ吸いたいわ。」とすぐ先のチェーン店の喫茶店へ入った。

僕はアイスコーヒーを頼み、父はホットミルクを頼む。
「ホットミルクなんか家でもどこでも飲めるやん。」と言うと
「アホ。喫茶店のホットミルクは特別うまいんや。昔な、俺の親父は俺になにも訊かんと注文すんねや。それが毎回ホットミルクでな。それで喫茶店ではホットミルクや。」
「それお金なかっただけやないの?」とつっこむが、父は聞いていない。
「あの店員さんのバンダナみたいなん可愛いな!」なんか言っている。

「映画っちゅうのはな。お前にとってどうゆうもんや?」唐突に父が言った。
「なんやの急に。そんなん言われても考えたこと無い。ただの娯楽ちゃうの。」
「なんじゃそら。ほなお前はゲームも友達も映画もただの娯楽かいな。」
「そうひとくくりにされたら難しいけど。。。強いていうなら、映画は視覚や聴覚にダイレクトに訴えてくる芸術作品を約2時間見せてくれるっていうとこかな。あとは作品を作った意味とかメッセージ性がダイレクトに伝わることで自分の人生観や考え方すらも凌駕してしまうところが刺激的でおもろい。」僕がそれっぽいことを言うと、父はきょとんとし言った。
「なにを言うとんねん。映画ゆうのはこうなんやドカーン!いうもんや。」中身の無いことを言うので
「なんやそれ。ほんで今回のはそんなん無い系の映画やで。」と冷たくつっこむと
「ほんまかいな。」「そらそやろ。」となった。

この後、映画館で泣きじゃくってる父を観て、とんこつラーメンを食って真っ暗な家に着くと、
「はよ寝ろ吾朗。今日はおもろかったな。」と父が断定的にいうもので、僕は考える間もなくおもろい一日になった。
いろいろ考えてもしょうがなく、映画はドカーンで、ラーメンはとんこつで、今日という日は断定的におもろい。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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