『犬~ペット~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト40

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『犬~ペット~』

いつものように、首輪をして。
 リードも忘れないように。
「さ、行こうか」
 僕が微笑むと、彼は嬉しそうに頷いた。

 近くの空き地に着いたら、リードを放す。
 そして、持っているボールを投げる。
 彼はそれを追いかけて、持って帰る。
「良い子だね」
 頭を撫でて、もう一度。
 今度は、先ほどよりも速く持ってきた。
 そうやって、しばらく遊んだあと。
 僕は彼を呼び、リードを持つ。
「ご飯をかって帰ろうか」
 僕の言葉に、彼は目を輝かせた。

 この町の夜は、非常に暗い。
 電灯はあっても、電球が切れていたりするから、意味がなかったりする。
 路地裏には、不良少年や少女がいる。
 彼は不安そうに僕を見る。
 僕はニコッと笑い「大丈夫」と言う。
「お前は良い子だから、襲われたりしないよ」
 そう言って、優しく撫でると。
 彼はホッとしたように、目をそらした。
 さて、ここを通り過ぎようか、としたとき。
 不良少年の一人が、僕と彼の存在に気づき、近寄ってきた。
 彼は怯えて、僕の傍で小さく震える。
 僕はため息を吐いて、少年に言う。
「何ですか? うちの子、怯えちゃっているんですけど」
「……あんたこそ、何だよ」
「?」
「何、人間に首輪つけて、リードもつけてんだよ」
「……はあ」
 困ったな。
 説明なんてものはできない。
――どうしたものか。
 と考えていると、彼のお腹が鳴った。
 チラッと彼を見ると、彼は不良少年を見ていた。
 僕はパッとリードを放して「よし」と言った。
 彼は嬉しそうに頷き、不良少年を押し倒した。
 僕は少し離れたところで、彼を見る。
 しばらく何も食べていなかったからか。
 彼は狩りに夢中のようだった。
 僕の近くで、他の不良少年と不良少女は震え、逃げ出そうとした。
――残念だったね。
 僕は心の中で呟いて、小さく笑った。
 彼は、獲物は逃さないから。
 逃げるなんてことはできない。

 狩りが終わると、彼は満足そうに僕を見る。
 僕は優しく彼を撫でて、リードを持つ。
「たくさん食べれて良かったね」
 僕の言葉に、彼は頷く。
「      」
「そうだね。久しぶりだったもの」
「  」
「よし、じゃあ帰ろうか」
「  」
 彼は笑った。
 僕は彼のリードを引いて、家に帰った。

 僕たちがいたところには、先程の不良少年と不良少女の姿はなく。
 あるのは、ほんの少しの血痕だった。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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