『河童~具体的な何か~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト42

あの子がこの池で亡くなってからもう10年が経つ。
それからは、誰かが水面に人影を見ただの適当なことを言って、噂になったりしていた。

「なぁ。」
「・・・?」
「なぁて!」
誰に話しかけられたのか分からず、きょろきょろしていると突然顔に冷たいものがかかった。
「つめた!」と思わず口から出るも、どこから飛んできたのかも分からない。

「ここやて。ここ。池んとこやんか。」
「ヒっ!」僕は恐怖のあまり声が上づってしまった。
そこには河童の格好をした親父が池に立っていた。

「え?なにしてんの?」驚きよりも先に疑問がわいた。
「なにって?河童やで。」
「ちゃうやん。なんで河童の格好で池に入ってんのって」段々と現状を把握し恥ずかしさのあまり、僕は半分怒りを覚えていた。
「昔女の子がこの池で亡くなったんや。それからちょいよい合間見てはこんなことしてんねん。」
何を言ってるのか全然わからず、僕は早足でその場を立ち去る。

「お父さんもう帰るで。」と懐かしい女性の声がして振り向くと母親だった。
僕の母は僕が5歳の時に交通事故で亡くなったはずだった。
「おう。帰ろか。もうこんな時間やな。」当たり前のように話す父を見て、僕はこれは夢の中なんだと気づく。

「今日も御苦労さま」と河童を労う母親は昔とちっとも変っていなかった。
「おう。今日も冷たかったわ。そんなことより息子に見つかってしもてな。」
「ほんまぁ。ひいとったやろ。」
「ドン引きやドン引き。すぐ帰りよった。」
「まぁまだ分からんよ。」声が聴こえるが僕はそこにはもういなかった。
悔しくて、とても気になっていろいろ考えてみた。
親父が河童をしている理由・・・

「まぁなー。俺が河童をすることで救われる人がおるなんて分からんよ。」
僕はその言葉を聴いて、直観的に思ったことがあった。

きっと親父は母を亡くしたことを誰かのせいにしたかったんではないだろうか。
自分があの時こうしていればとか、こんな言葉をかけていればとか、自責の念にとらわれ苦痛だったのではないだろうか。
もちろん事故を起こした加害者が悪い。それを決定的に裏付ける動機が欲しかったんだ。
河童がいるという事実を起こすことで救われるのは、昔あの池で亡くなった子の両親だろう。
具体的な何かのせいに出来れば、苦痛は和らぐ。

枕元で、親父が冷えたきゅうりを食べていることを僕はまだ知らない。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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