『時間~見える~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト45

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『時間~見える~』

毎月第三土曜日は全校集会が行われる。俺はこの時間がすごく苦痛だ。
ただ座っていれば終わるのだけれど…まだ教室で嫌いな数学の授業を聞いてた方がマシに思えてくる。

ざわつく体育館の中がだんだんと静かになっていく。壇上の校長の存在に気がついたからだ。
「えー、みなさんが静かになるまで約二分かかりました」
腕時計を見ながら話し始める。
「ここには約千人の生徒が集まっています。二分間×千人なので二千分も無駄にしているのです。みなさんは人の時間を奪っていることを自覚した方がいい。みなさんは時間泥棒です!」
俺たち生徒はざわついている。
「ですから、こういう時間が勿体ないのです。何度もざわついて静かになるまで待って、なんて繰り返していると、なかなか話が進まないじゃないですか。二千分あれば何ができると思いますか? 私は旅行がしたいですね。できれば遠くに…そうですね、ブラジルに行きたい」
遠い目をしながら話しているが、明らかに二千分を時間に換算できておらず、全生徒の前で頭の悪さを晒している。この男が学校のトップだと思うと悲しくなる。
「ブラジルに行ってサンバを踊りたい。こう見えて私は社交ダンスが趣味でしてね、リズム感はある方なんですよ」
再びざわつくが、自分の話に酔っている校長が注意することはなかった。
「あとは…ペットを抱きながら何も考えずにボーっとテレビを見て過ごしたいですね。私こう見えて猫を飼っているんですよ」
校長のイメージなど何一つなかったので「こう見えて」と言われてもただただリアクションに困るだけだった。ただ気づけたことは、この男は普段から何も考えずに過ごしていそうだということだ。よく校長をやっているものだ。

「ん、どれくらい話していたかな」
話し始めたときと同じように確認するが時間の経過を把握できていないようだ。なんのための腕時計なのか。俺は校長から死角となる位置に取り付けれた時計を確認する。すでに十分は話している。校長の理論で考えると十分間×千人なので一万時間も無駄にしていることになる。これくらい時間があればブラジルでもどこでも旅行に行けるだろう。そしてそのまま帰って来ないで欲しい。本当の時間泥棒はこいつだ。
「まあ、何が言いたいかと言うと…とにかく勉強!」
上手い言葉が見つからずに勢いで誤魔化ており、体育館全体が騒然とする。
俺たち生徒だけじゃない、他の先生たちも苦笑いをしていた。
「校長先生、ありがとうございました」

土曜日の授業は半日だけでなので、家に帰って昼ごはんを食べる。
カップ麺にお湯を入れて、砂時計をひっくり返して三分間静かに待つ。
校長がテレビを見るときのようにボーっと砂時計を見ている。
一度落ちた砂を再び上へ戻すことはできない。そのことを校長は理解していないんだろう。
こうやって時間が減っている様子を自分の目で確認したら少しは反省するだろうか。
俺は校長室に砂時計を届けてやりたいと思った。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

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