『ジャンクション~岐路~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト46

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『ジャンクション~岐路~』

 高校を卒業して、ほんの少し経った時。
 私は親から卒業祝として、中古車を買ってもらった。
 トラックが良かったけれど、まだ大型の免許を取っていなかったから、取ったら買うことにした。
 中古車に乗り、母校である藁谷町(わらやのまち)第二高等学校に向かい、恩師である佐野(さの)先生に会いに行った。
 駐車場に止め、いざ行こうとすると前から佐野先生が歩いてきた。
「佐野先生っ」
 私が声をかけると、先生はニコッと笑い「おう」と言う。
「どうした? 貴子(たかこ)」
「あなたに会いに来たんですよ。買ってもらったばかりの中古車で」
「俺に? そりゃまた何ゆえ」
「私のドライブテクニックを披露したくて」
「ドライビングテクニックな」
 て、と先生は私に言う。
「俺に披露したいだけで来たのか? わざわざ」
「はいっ」
「お前、馬鹿かよ」
「先生に言われたくないですよーだ」
「可愛くねえよ、貴子」
 先生は頭を掻きながら私の車の助手席の方に行く。
「ドライビングテクニック、披露するんだろ? 乗ってやるよ」
「よし来た! あ、先生。これから予定は?」
「特にないかな」
「あざっす」
「いや、でも仕事はあるからな? 明日も。だから、そこそこの時間には帰してくれ」
「わかってますよ」
 私はそう言い、運転席に座る。
 先生は助手席。
 ほんの少し緊張している私に、先生は優しく「気張らずにやれ」と笑った。
 私は頷き、車を動かした。

 佐野先生は不思議な人だ。
 元ヤンで、馬鹿に見えるのに。真面目なことを真面目なトーンで言ったりする。
 ていうか、佐野先生は頭が良い。
 勉強だけでなく、生活面でも。
 一年しか一緒にはいなかったけれど、何となくわかる。
 頭が良くて、いつも正しい。
「貴子」
 佐野先生は窓の向こうを見ながら、私に話しかける。
「聞き流してくれても構わない話なんだけどさ」
「はい」
「人はどうして間違えるのだろうか」
「…………」
「間違えることが人ならば、それを正していく俺は人を殺しているようなもので。これは立派な殺人なのではないか? と思うのだ」
「先生は、もしもそれが殺人ならばどうしますか?」
「ん?」
「それが殺人で、殺人罪に含まれていたら。先生はどうするのかな? なんて、思っただけっす」
「罪を償うよ」
「死刑になるかもしれないんすよ?」
「なったら、なっただよ」
 先生は私の方を見ずに淡々と答える。
 どんな表情をしているのか、私は気になり見ようとすると「前見ろ」と先生は私を見る。
「そろそろ高速だよ。そうではなくても、前を見ろ。ここのジャンクションは事故がまあ起こりやすいからな」
「先生、来たことがあるんすか?」
「あるよ。実家に帰るときとかな」
「ああ、先生はここ地元じゃないんすよねぇ」
 確か広島だった気がする。
 広島のどこだったかは忘れたけれど。
「てか、ずっと気になってたんですけど」
 私は前を見ながら先生に話しかける。
「先生って、たまに真面目な話をしますよね」
「はあ゛ん? そりゃ、俺だっていつもふざけているわけではねえよ」
「いや、その。真面目な話をしているときの方が、生き生きしているというか」
「……あー、まあな」
「ふざけているときの方が、死んでいるって言った方が良いかもしれないくらい」
「貴子にはそう見えていたのか。いや、今もかな」
 先生はため息を吐き出して、少し窓を開ける。
「やっぱり、お前は俺の好きな生徒だよ」
「へ? は? 何すか、急に」
「お前と川原(かわはら)さんくらいだからな、今のところ」
「いや、何の話っすか。先生が頭良いけど、悪い振りをしているってことを知ってるって話?」
「まあ、そんな感じ」
「はあ…」
 なぜ、それをしているかとかは、私は知らないけれど。
 ていうか、興味がない。
 それを知ろうが知らなかろうが関係なく、今そこにいるのは佐野先生であり。それ以外の何者でも何物でもないわけで。
 知らなくても良いことを知る必要は全くないわけで。
「それで先生に好かれても嬉しくないっす」
「まあな」
「……先生って、あの――」
「貴子、さっきの話だけどさ」
 先生は私の台詞を遮り、呟くように言う。
「人生に於いて、数々の岐路がある。それは決まって片方は間違いで、片方は正しい」
「ええ」
「正しい道を選ぶべきだけれど、人は必ず間違っている道を選ぶ。それは、間違えることが人だからだ」
「……」
 また少し難しい話をしだしたな、と思いながら私は頷く。
――てか、こういう話って私や川原先生の前でしかしないよな。
 なんて思っていると「つまりね」と先生は聞こえるか聞こえないかくらいの声で言う。
「俺は俺が人であるという証明をするために、他人に『あなたは間違っている』と言われなければならないんだよ」
「んあ?」
「自分の間違いほど、自分では気づけないものなんだ。誰かに言われるか、ヒントを与えてもらうかをしないと。テストだって、間違いだとわかってその答えを書くことはないだろ? 大体は正しいと思い、その答えを書く」
「まあ、そうですね」
「それと同じ」
 あ、そこ入って、と先生は言う。
 わかりました、と私はパーキングエリアに入る。
「でも、それって難しいですよ」
「ん?」
「正しいと思っている人の間違いを探すなんて」
「…………」
「間違いを見つけたとて、それが間違いなのかわからない。もしかしたら、それは正しくて。間違いと思う自分が間違っているかもしれない」
「そうだな」
「ええ」
 と言って、私は駐車場に車を停めた。
――でも、あれか。
 ふと、高校三年の夏のことを思い出す。
 クラスの何人かで天体観測をした日を。
――俺が全て正しいというわけではない――
 と先生は呟くように言っていたことを。
「先生」
 私は先生を見て、はっきりと言う。
「私が先生の間違いを探してみせます」
「おう。やってみろ」
「ええ、次会うときには何が間違いかを探して、先生に言いますから」
 だから、その日まで。
 その時まで。
 私の憧れの先生でいてね。

―緑川凛太郎―

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