『ハゲ~陰口の代償~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト49



『ハゲ~陰口の代償~』

―朝礼後―

「今日の朝礼で気付いたんですけど、寺山さんハゲてません?」
僕がそうやって陰口を言うと遠藤さんは笑っていた。
「ほんま?気付かんかったわ。」
と返す言葉に、
「ちらっと見ただけなんですけど、結構やばかったですよ。」
と含み笑いを持たせて応える。
「苦労してはんねんで。」
と言う遠藤さんも少し面白半分だ。

―昼休み―

「今日の朝礼で気付いたんですけど、寺山さんハゲてますね。」
僕がそうやって陰口を言うと寺山さんと同じ部署の斎藤さんは笑っていた。
「俺もな。それ思っててん。落ち武者みたいやろ。」
重ねてイジる斎藤さんに僕は声を出して笑い、
「苦労してはるんですね」
とどこかで聴いたセリフをそのまま使った。

―トイレにて―

「今日の朝礼で気付いたんですけど、寺山さんハゲてませんでした?」
僕がそうやって陰口を言うと役員の森さんは笑っていた。
「あんま言うたんなよ。そんな陰口すぐ伝染するからな。若いのに大変やな。あいつ独身か?」
とコミュニケーションを取ってくる森さんに僕は
「確かそうやったと思いますよ。もうちょっと小奇麗にせな誰も寄ってきませんよね。」と重ねてイジる。
「言うなぁ~」
とだけ森さんは言い、お疲れさんとトイレを出て行った。

―次の日、朝礼後―

「今日の朝礼で気付いたんですけど、寺山さんハゲてませんでした?」
僕がそうやって陰口を言うと黒飛さんが怪訝な顔をする。
僕の顔は少し強張り、何か悪いことを言ったという自覚が芽生える。
「お前しらんのか?寺山な、持病持ちで注射うってんねん。なかなか治りにくい難病でな副作用があるんや。その影響で髪の毛が抜けるんやて。あんまりヘラヘラして広めたあかんぞ。」
僕はその事実を聴いた時、凄まじい自責の念に駆られ、立ちすくみ少し熱を帯びた。

仕事で調子が良かった僕は、気持ちが大きくなっていたのかもしれない。
事実を知らなければさらに彼を傷つけていたかもしれない。

陰口で言っていたため、直接本人を傷つけていない代償として、
僕は謝罪の言葉も言えないまま、胸に重しを抱えて過ごす事になった。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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