【白のセーター】
彼女はベージュのセーターを着ていた。僕は何も尋ねない。
僕は白のセーターを着ている。数日前に彼女と約束したんだ。
「白のセーターで合わせよう。」僕が言ったサブい提案に彼女はノリノリだった。
少しくすんだ彼女のベージュのセーターはとても大人っぽく、少し汚れたこの世界にうまく馴染んでいた。
その点、僕の白いセーターはなんだか世間知らずだ。急に周りの目線が気になりはじめた。グレーな色とギーギーと雑音が混じる空間に、僕だけが異彩を放つ。
ヒルナンデスで今年の流行色は白だと言っていた。そんなテレビの言葉が僕の脳に残り、こんな提案に至ったのだろうか?僕はなんてくだらなく、流されやすいんだろう。僕は永遠とも思える瞬きをする。
凄まじい悪臭がする。出どころは明らかだ。匂いがこの空間を支配していく。
ダークグレーになった世界に白の爆弾を身に纏った。バイクを全速力で走らせながら、一番殺したい奴を考えた。この爆弾を渡したい。丸めてお前に向かって蹴りたい。身体を掻きむしりたい。丸坊主にしたい。
目を開けると、僕はこの想いと彼女の笑顔のコントラストを何かに例えようとしていた。
明るく話している彼女。ベージュのセーターについて僕はなにも尋ねない。2人で約束したルールを咎めて、なんの意味があるだろうか。いや、そもそも2人で約束などしていない。僕の一方的な発言。一方通行の気持ち。相槌を打ちながらも僕はなんだか泣きそうなんだ。
白のセーターが異彩を放つ。
僕は何も尋ねない。
〜黒川洸太郎〜
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