生まれつきの障害で、俺は周りにいじめられていた。
たしかに、障害はある。
しかし、これでお前らに迷惑をかけたか? と、思う。
かけた覚えは、まったくないから。
「いじょーしゃ!! いじょーしゃ!!」
と、クラスでいじめっ子である男子が俺を指してケタケタと笑う。
それが気持ち悪くて、毎回トイレで吐き出している。
――誰か、助けてくれないかな。
この苦しくて、つらい状況。
誰か、助けてくれ。
俺が何をしたというのだろう。
生まれつき、虹彩異色症で、色盲なだけ。
それだけなのに。
俺は、教室に戻って、ランドセルを持つ。
すると、担任が俺に「待って、引馬(ひくま)くん」と声をかける。
「引馬くん、体調悪くないのに。勝手に帰るなんて、ダメだよ」
「……さっき、吐いた。気持ち悪い。帰ります」
「そんな、引馬くん。顔色悪くなんかないじゃない。嘘はダメよ。さあ、席に着いて」
「……本当なのに」
どうして、嘘だと決めつけるのだろう。
俺の話くらい、聞いてくれよ。
いじめっ子たちの話は聞くのに。
俺の話を聞かないで、俺が悪いなんて。
――決めつけないでくれ。
と、思いながら、席に着いて俯いていると。
ガタッと、席を立つ音がした。
顔を上げて、音のした方を見てみると。
そこには、従兄弟の悠生(ゆうき)が立っていた。
悠生は無言で、先生を含めて俺以外の人をにらむ。
「ねえ、佑司(ゆうじ)の話を聞けよ。てか、見てみろよ。こいつ、顔色悪いじゃん」
「平沢(ひらさわ)くん。座りなさい」
「いや、俺の話を聞けよ。聞いてくれよ。聞こうとしてくれ。どうして、両目の色が違うだけで、異常者なんて言われて、いじめられなきゃならねえんだ。おかしいだろうが」
「平沢くん、良いから」
「良くないよ! ふざけんな!! お前ら!!!」
悠生が、あんなに怒っているのは、初めて見た。
普段は、まったく怒らないのに。
いつも、優しくて。かっこいい。
俺の給食がないときは、自分の給食を分けてくれる。
――パンくらいしか、あげられなくて悪いな――
と、申し訳なさそうに言って。
ちょうど、テレビでよく見るアンパンマンのような。
そんな感じに、優しくて。かっこよくて。
強い。
そんな、悠生が泣きながら怒鳴る。
「佑司は何も悪くねえじゃん。好きで、こうなってるんじゃねえじゃん。なんで、先生であるあんたまでさ、いじめに加わってるの!? ふざけんなよ、マジで!!!」
「平沢くん、静かに――」
「うるせえ、バカ野郎!!!」
「平沢くん、先生に向かってバカ野郎とはなんですか。お父さんお母さん呼びますよ」
「呼んでみろ。俺は、間違ってない。間違ってるのは、あんたらだ。左右の目の見た目が違うだけで、佑司は普通だし。色があまりわからないだけで、佑司は見えるよ。他の人にうつったりしないよ。何も知らないくせに、勝手に佑司のことを決めつけるな!!」
悠生はそう言うと、ランドセルを持って、俺のところに来る。
「佑司、帰ろう。父さんに診てもらおうよ。最近、お前、よく吐いてるしさ」
「え? あ、うん」
「じゃ、俺、佑司を家に送らないとなので帰ります。さよなら」
ピシャリ、と言って、悠生は俺の手を引いて、悠生の家に帰った。
悠生の父さん(俺から見れば、伯父さん)は、医者だ。
総合医とかいう、医者らしい。
「ねえ、悠生」
学校からの帰り道、俺は悠生を見る。
悠生は涙を拭いながら「何?」と言う。
「どこか痛いところとか、ある?」
「うん……。特にないかな。えっと、そうじゃなくてさ」
「ん?」
「悠生って、アンパンマンみたいだよね」
「は?」
悠生は噴き出す。
「何それ」
「知らない? アンパンマン、強いんだよ。優しくて、かっこよくてさ。悠生みたい」
「……そういうことか。えっと、ありがとうな」
「それ、俺の台詞だよ。悠生、ありがと」
「どういたしまして、かな。えっと、もうすぐ家だから」
「うん」
悠生は、俺の手を引いたまま前を歩く。
優しくて、かっこよくて。
とても強い。
そんな悠生に、俺は憧れの気持ちを抱いた。
-緑川凛太郎−
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