「あり得ん。何ゆえ、全身チェックなんだ」
俺は親友の私服を見て、親友に訊く。
「お前は、あれか? チェッカーズ目指しちょっのか」
「目指してねえ。あいつらが、俺を目指しているんだ」
「やぞろし。殺すぞ」
そう言って、俺は親友を睨む。
――本当に、バカなのかな。こいつ。
てか、あまりにもビックリして方言出てしまったではないか。
ふざけるな、本当に。
「ったく、俺が服選んでやるから、付いてこい」
「えー。文人(あやと)優しい」
「黙れ」
と、俺は親友を無理矢理近くの服屋に連れていく。
派手でも、地味でもない、そんな服がこいつには似合うのだ。
十年近く一緒にいるから、よくわかる。
「とりあえず、一個だけはその赤のターンチェックは残しておいてやらぁ」
「ありがと。これがないと、俺じゃねえからな」
「っるせぇ、言ってろ」
と、照れ隠し(自分でも、なぜ照れたかはわからん)に睨み付けて、店内を歩いた。
普通にジーパンとか、どうだろう。
シャツは、このままチェックにしたままで。
それだけだと、ダサくなるから、何か……。
と、考えながら、合わせたりしていると、親友が突然笑い出した。
ついに、頭がいかれたか、と思い「どうした?」と訊く。
「紀治(としはる)?」
「あ、いや、悪い。なんだか、恋人とデートしているような気持ちになってしまってな」
「デート? 逢い引き?」
「ん、まあ、そうだな。なんか、悪い」
「あ、いや。別に、平気だけどさ。なんで、急にそう思った?」
「いやあ、お前、すげえ真剣に俺の服選んでるじゃん。なんかさ、彼女いたら、こうなのかな? てさ」
「いや、お前、彼女いるだろ? その彼女とは、こういうことしねえの? てか、本当は、彼女と一緒に、こういうことするだろ。わざわざ友人である俺にやらせるなんて、頭がおかしいとしか思えんな」
「彼女とはしない、てか、彼女いるなんて嘘だよ。見栄だよ、見栄。んで、そんな俺に付き合うお前もお前だよ」
「彼女いねえのかよ。じゃあ、なんでいるっつったんだよ」
んで、なんでホッとしているんだよ、俺は。
――まるで、俺がこいつのこと……。
なわけ、ねえか。
俺は、女が好きだし。こいつも、女が好き。
そういうものだろ? 普通さ。
「なあ、文人」
と、親友は俺を見る。
「俺が、彼女いるって聞いてさ。どう思った?」
「どうって、どうだよ。なんもねえよ」
「そう。ま、俺もそうかな。でも、友人すら俺しかいねえお前が彼女なんて、あり得ねえか」
「バカにしているのか、てめえは」
作ろうと思えば、作れるんだよ。
友人も、恋人も。
「面倒だから、作らねえし。それより、お前、これ着てろ」
と、俺は濃いめのジーパンと、黒いベストを親友に渡す。
「サイズとかあるから、試着してみろ。試着室の外で待ってるから。声かけろよ」
「ん、わかった。ありがと」
と、親友は笑って、近くの試着室に入った。
少しすると、試着を終えた、と声をかけ、カーテンを開く。
「どう?」
「まあ、マシだな。さっきより」
てか、あれだな。
やっぱり、元が元で悪くないから、まともな服を着れば、それなりに格好はつくな。
普段から、こういうまともなものを着ていれば良いものを。
なんで、こいつは、まともなものを着ないんだ。
と、考えていると、親友が赤面して俺に言う。
「お前、俺のこと好きだろ」
「は?」
「どんだけ、褒めるの? 普段、褒めないよね。もう、お前、バカなの?」
「いや、褒めるも何も」
「……全部、声に出てたからな。さっきの」
「……え?」
「『元が良い』だの。『格好がつく』だの。マジで、お前、いい加減にしろ」
「え、あ、いや、待って」
声に出てたのかよ。
くそほど恥ずかしいじゃねえか。
「やぞろし!!」
「方言出てるって、文人」
「だあ、もう。知らん」
一気に、熱くなる。
恥ずかしさからの熱が半端ない。
右手で、顔を隠しながら、チラリ、と親友を見る。
親友は、余裕のある顔をしている。
くそムカつく、と思い、俺は親友を殴った。
痛がっている親友を無視して、俺は店を出る。
もちろん、服は買って。
店の外を出ると、さっきよりも晴れていて腹が立った。
――たく、こいつのせいで。
と、機嫌の良い親友を見る。
「行くぞ、クソ紀治」
胸の奥が痛くて、熱っぽくなったのは、腹が立ったから。
そういうことにしよう。
-緑川凛太郎−
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