『ゴミ箱〜言葉のゴミ箱〜』
僕の家には、たくさんのゴミ箱がある。
その一つ一つが、なんのためにあるのか、なんて。
僕は知らない。
満杯になった紅い、赤いゴミ箱を、僕は外に放る。
満杯になってしまっては、もう価値がないから。
そう言うと、奈穂は笑って、僕に言う。
「それはとても良いと思うよ。でも、きっと警察とかに怒られちゃうね」
「だったら、警察ごと捨てよう。僕には不必要なものだから」
ゴミ箱の中身は、何もない。
当たり前だ。
そのゴミ箱には、言葉を捨てているんだから。
不必要な僕の感情を吐き出す言葉は、不必要だ。
「ねえ、奈穂」
「何?」
「明日は、ごみ収集らしいね。どのごみを捨てようか」
僕は、奈穂に部屋を見せる。
黄色いゴミ箱には、いつも騒がしい隣人。規則規則と僕を叱る大家。
このゴミ箱には、騒がしい人を捨てている。
捨てる理由? そんなの決まっているじゃないか。不必要だから。
青いゴミ箱には、泣いている子ども。鳴いている犬。
紫色のゴミ箱には、何を捨てていたっけ。
こんなに溢れてしまって。
僕としたことが。捨てるのを忘れるなんて。
「千歳。この紫のは何があるのかな。そして、僕は見ても平気?」
「良いよ。てか、僕も何を捨てたか、忘れちゃった」
「千歳、たまにあるよね。何を捨てたか忘れちゃうの」
「ごめんね。だって、所詮ごみだもん。覚えていなくても良いかな、て」
「うん、そうだね」
と、会話をしながら、僕たちはゴミ箱を覗く。
そこにあったのは、教室でいつも僕をいじめてくる男子。
僕に金を脅して奪おうとした女子。
奈穂が好きだから近づくな、と僕に言ってきた上級生。
僕を好きだと言ったけど、本当は奈穂に近づきたかっただけの女子。
僕のことをごみだと言った男子。
僕をクズで下劣な人間だ、と言った教師。
「はは、忘れてた。今、出したら、何を言われるかな」
と、僕は奈穂を見る。
奈穂は、無表情でゴミ箱を見る。
――どうして、僕を見ないんだろう。
奈穂は、いつも僕ではない人を見る。
ああ、そんな目、なければ良いのに。
僕だけを見てくれる奈穂になってくれないかな。
「ねえ、奈穂。聞いて」
「何?」
「奈穂なら、どのゴミ箱が良い? 赤? 青? 黄色? 紫? それとも、僕?」
「そんなの、千歳に決まってるじゃないか。それに、もう入っているようなものだよ」
「もう、奈穂ったら」
と、僕は笑う。
奈穂は、優しい。
きっと、僕がそう言ってほしいっていう顔をしたから、言ってくれた。
あーあ。
今、写真あったら、撮って、奈穂が好きって言うブスたちに売って、金をもらったのに。
まあ、他にもあるから良いや。
奈穂って、写真一枚でもかなりの値がつくんだよ。
イケメンで、文武両道。公私混同をしない。
いつも真面目な顔をしているからね。
笑った顔とか、そういうの珍しいんだよ。
だからね、たくさん金になる。
「ね、奈穂。どうしよう」
「うーん。とりあえず、人だというのをバレないように、ぐちゃぐちゃにしてから、袋をきっちり閉めて、捨てれば良いんじゃない?」
「そうだね。そうしよう」
僕はそう言って、台所から包丁を取り出す。
「奈穂は、危ないから、別の部屋にいてね。何かで間違って、奈穂に包丁がいったら、僕、どうすれば良いかわからないから」
「うん。わかった」
奈穂は頷いて、隣の部屋に行った。
――さて、どれから殺ろうかな。
ー緑川凛太郎ー
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