『犬~ペット~』
いつものように、首輪をして。
リードも忘れないように。
「さ、行こうか」
僕が微笑むと、彼は嬉しそうに頷いた。
近くの空き地に着いたら、リードを放す。
そして、持っているボールを投げる。
彼はそれを追いかけて、持って帰る。
「良い子だね」
頭を撫でて、もう一度。
今度は、先ほどよりも速く持ってきた。
そうやって、しばらく遊んだあと。
僕は彼を呼び、リードを持つ。
「ご飯をかって帰ろうか」
僕の言葉に、彼は目を輝かせた。
この町の夜は、非常に暗い。
電灯はあっても、電球が切れていたりするから、意味がなかったりする。
路地裏には、不良少年や少女がいる。
彼は不安そうに僕を見る。
僕はニコッと笑い「大丈夫」と言う。
「お前は良い子だから、襲われたりしないよ」
そう言って、優しく撫でると。
彼はホッとしたように、目をそらした。
さて、ここを通り過ぎようか、としたとき。
不良少年の一人が、僕と彼の存在に気づき、近寄ってきた。
彼は怯えて、僕の傍で小さく震える。
僕はため息を吐いて、少年に言う。
「何ですか? うちの子、怯えちゃっているんですけど」
「……あんたこそ、何だよ」
「?」
「何、人間に首輪つけて、リードもつけてんだよ」
「……はあ」
困ったな。
説明なんてものはできない。
――どうしたものか。
と考えていると、彼のお腹が鳴った。
チラッと彼を見ると、彼は不良少年を見ていた。
僕はパッとリードを放して「よし」と言った。
彼は嬉しそうに頷き、不良少年を押し倒した。
僕は少し離れたところで、彼を見る。
しばらく何も食べていなかったからか。
彼は狩りに夢中のようだった。
僕の近くで、他の不良少年と不良少女は震え、逃げ出そうとした。
――残念だったね。
僕は心の中で呟いて、小さく笑った。
彼は、獲物は逃さないから。
逃げるなんてことはできない。
狩りが終わると、彼は満足そうに僕を見る。
僕は優しく彼を撫でて、リードを持つ。
「たくさん食べれて良かったね」
僕の言葉に、彼は頷く。
「 」
「そうだね。久しぶりだったもの」
「 」
「よし、じゃあ帰ろうか」
「 」
彼は笑った。
僕は彼のリードを引いて、家に帰った。
僕たちがいたところには、先程の不良少年と不良少女の姿はなく。
あるのは、ほんの少しの血痕だった。
―緑川凛太郎―
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