『プール~勉強する意味~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト41



『プール~勉強する意味~』

どこからかプールの匂いがして、なにか遠い昔の記憶が横切った。
あれはいつだったかな。誰かが何かを言ってたな。大事な事だった気がする。

ドン!助手席で息子が塾で配布された英単語帳を放り投げた。
「こんなもん意味ねぇよ。」
これが最近の息子の口癖だ。

なにもかもが面倒くさい年頃なんだろう。俺にもそういえばあった。
とにかく何をするのもイライラしてて、それに対して自分でもダメだと気付いているから、誰かにやいのやいの言われるのが嫌で。
日々、何かに迫られている気がしてて、将来という漠然とした恐怖が怖い時期だった。

「そうだな。意味ねぇよな。」なんて息子におべんちゃらを使う親父を息子はどう思うのだろう。
分かっているからこそ何も言えない。分かっているからしょうがないと許してしまう。
これが本当の解決に向かうはずもなく、自分の心の中が平穏に保たれるだけだ。

だからといって息子に何を言うべきかも分からない。
『自分で考えるだろう。放っておくことにしよう。』結局この結論に今日も落ち着く。
「でもな、勉強はやってて損しないと思うぞ。」

『損しない』というキーワードが自分から出た時、溢れる様に記憶がよみがえってきた。

「いいか。耳くそほじくってよく聴いとけよ。勉強なんて出来なくてもいい。スポーツなんかも然りだ。じゃあ何で勉強するかだけどな、結論としては『損をしないため』だ。
いいか。例えば、このプールは25Mプールだよな。ここに何Lの水を入れると一杯になるかを考えるのが『算数』だ。
そして、目や耳に炎症が起こらないようどんな薬品をいれるか考えるのが『理科』
この水はどこから引いてきたかを考えるのが『社会』
そして、今話している文章を起承転結にまとめ、お前に教え説く能力を磨くのが『国語』だ。

この現実を知らないと、お前が大人になった時、損するんだ。
水道代を高く払わされたり、消毒されていない水のせいで病気になったら嫌だろう。
世の中は馬鹿が損する。損しないためには知識が必要なんだ。

意味は絶対にある。今、俺の言葉を信じてみろ。大人になってそれを線で結べ。
今分からなくても、分かるときがやってくるから。」

そうだ。俺の親父はそうやって、理路整然と言ったんだ。
逃げずに自分の考えを述べれば良い。後は息子を信じるほか無い。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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