『河童~お皿の深さ~』白川湊太郎-ショート小説コンテスト42

*ぶろぐ村に参加してます!
にほんブログ村 子育てブログ パパの育児へ にほんブログ村 小説ブログへ



『河童~お皿の深さ~』

「あの、もしよかったら僕と相撲をとってもらいたいんですけど」
 丁寧な口調で話しかけてきたのは子供、ではなく子供の体格をした河童だった。
「きゅうりあげますんで」
「え、もうすぐ雨降るらしいから、早く帰りたいんですけど」
「そんなこと言わずに、きゅうりあげますんで」
 河童はさもきゅうりが万人の好物であるかのように話している。
「じゃあ、一回だけですよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
土俵なんてものはなく、広い河川敷で行うことになった。どうやら倒した方が勝ちのようだ。河童は円形の徳俵があるかのように一定距離を保って土俵入り前の四股踏みなどの動作を行っていた。対して私は相撲の動作など何もわからなかったので、ただただ河童の動きを見ていた。
一連の動作が終わり、私と河童は近づいた。さて今から組むぞ、というときになって急に私は礼をしておこうと思いついた。
「お願いします」
「あっ、こちらこそお願いし……あっ」
私に続けて河童もお辞儀をしたため、頭のお皿の上に入っていた水が全て流れてしまった。その瞬間に河童の表情に力がなくなり、目が虚ろになっていた。私は今がチャンスだと思い「はい、のこった」と短めにスタートの合図を出して河童を軽く押すと、彼は簡単に後ろへ倒れて尻餅をついた。
「ちょっと、なんかずるくないですか?」
「ずるくないですよ、礼儀を重んじるスポーツですからね、普通です」
私はさも自分が相撲を知っているかのように話した。
「ああ、やっぱり水が零れると力がなくなるのは大きな弱点ですね、もっと深いお皿だったらなあ……これはお礼のきゅうりです」
「まあ、考えておきますね」
今にも雨が降りそうな曇り空だったので私は急いで家に帰った。

「ただいまー」
相撲をしてから走って帰る途中に雨が降ってきて、私は少し濡れた状態で家に帰って来た。もし河童に呼び止められなければ濡れることはなかっただろう。
「おかえりー。ちょうどよかった、二階の部屋で雨漏りしとるからバケツ置いてきて」
「うん、わかった」
「ん、あんたなにもってんの?」
「きゅうり」私は母へ見せつけるように掲げた。
「どしたの?」
「河童にもらった」
「なに言うとるん?」
「河童と相撲してん」
「は?」
母はまだ何か聞きたそうだったけれど気にせずにバケツを持って二階へあがった。
二階の一室で雨漏りがしていた。落ちた雨が畳に染み込んでいく、このままでは畳が劣化してしまうだろう。私は雨の位置を確認してバケツを置いた。ポタン、ポタン、と一定のリズムで落ちてくる雨の音が少し心地よかった。
ふと私は興味本位で頭の上にバケツを乗せてみた。河童の気持ちになってみたかったのである。私は「お願いします」と先程相撲を取ったときのようにお辞儀をしてみたが、バケツの水は零れなかった。河童の頭のお皿よりも底の深いバケツだからだろう。もしまた相撲を取ることがあるなら、アドバイスしてあげようか。

ポタン、ポタンと雨の落ちる音が、耳からではなく直接頭の中に入ってくる感覚があった。

―白川湊太郎―

ショート小説コンテスト

*ぶろぐ村に参加してます!
にほんブログ村 子育てブログ パパの育児へ にほんブログ村 小説ブログへ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA