『メモ帳~かっこいい仕草~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト43



『メモ帳~かっこいい仕草~』

辻先輩に仕事を教えていただいて大体1年が経った。
とは言っても、この人から学んだ事は接待の時にカラオケでヘドバンする方法ぐらいだった。
それぐらいに適当に僕をあしらい、見て覚えればそれで良いじゃんと、自分でも言っていた。

僕の方がエクセルやパワポは使いこなしているし、上司からの評価も良い。
あいつはあんな奴だから、お前がフォローするんだぞと言われる始末だ。
まぁ早くあんな先輩は放っといて、早く出世でもしようなんて思っていた。

ただ辻先輩のメモを取るときの姿はとても格好が良い。
何でも無いタイミングで胸ポケットからすっと取り出す黒皮のメモ帳は渋くて、ささっとメモを取る姿は同性からみても魅力的に感じた。
なにを書いてるのかは教えてくれない。なにかその時に感じた事を書いているんだと言っていた。

2年間の研修を終え、一通りの仕事とクライアントを覚えた僕は基本的に辻先輩より仕事が出来るようになっていた。
上司も辻先輩より僕に仕事をふってくれる。なによりも辻先輩を直々に教えていた常務のお気に入りが僕だった。

辻先輩のメモ帳が茶色に変わっていた。あの黒皮の手帳やめたんだなぁと少し残念に思えた。
魅力ある手帳だったので、僕は次の日に似たような手帳を買って、辻先輩に話しかけた。
「前に使ってた辻先輩の手帳に憧れて、似たようなの買ってみたんです。どうですか?」
ちょっとした世間話をして、コネクションを少しでも繋いでおこうと気軽に声をかけただけだった。

すると辻先輩から意外な返答がかえってきた。
「あーあれか。あれは今常務が持ってるんだ。お前のことを記録したメモだったからな。」
僕は今までのことがフラッシュバックして立ちくらみを起こしそうになった。辻先輩は続ける。
「お前は優秀だからな。気楽にがんばれよ。」
僕はこの人についていこうと思った。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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