『メモ帳~黒髪メモ帳~』
利一(りいち)は、よくメモを取る。
理由はたった一つ、忘れないためだと言う。
僕は利一とはずっと一緒にいるし、利一が忘れてしまっても、僕が覚えているから問題ないように思える。でも、利一は嫌だと言う。
綺麗なショートヘアーの金髪、少しつり目で、アイラインを引いたような金眼をキラキラと太陽に輝かせて、風に靡かせて利一は優しく僕に言う。
「英忠(ひでただ)のことも、僕は忘れてしまうから」
普段の利一なら、きっと言わないことをこの時の利一は言った。
言ったのだ。
僕は瞠目し、言葉を少し失った。
それを見ると、利一はニコッと笑い「ごめんね」と言う。
「僕は、英忠のことが大好きだ」
「え?」
「でも、そのことも忘れてしまうからね」
書いておくんだよ、と利一は少し分厚いメモ帳を僕に渡す。
「持っていてほしいな」
「……利一、あのさ」
「うん」
「一番下の黒紙は何?」
「それはね、英忠」
利一は言う。
とてもはっきりした口調で。
僕の目を見て。
「 だよ」
「っ」
その言葉が来ることは、予想できた。
でも、僕は聞きたくなんかなくて。
わざと聞こえない振りをして、利一に言う。
「ごめん、聞こえなかった」
「英忠、嘘とか下手だね」
利一は笑って、僕の手を引く。
「大丈夫、それは全部全部、僕のことだから」
「……うん」
手を引かれて、歩いてる途中。
僕は、ハッとした。
周りを見ると、そこは僕の家で、隣には利一が寝ている。
(あれ、寝ちゃったのか)
と、ぼんやりと思い、僕はまた目を閉じる。
利一から貰った分厚いメモ帳を持って。
――それはね、英忠――
――呪いなんだよ――
―緑川凛太郎―
最近のコメント