『月~キムチ鍋~』黒川洸太郎-ショート小説コンテスト44



『月~キムチ鍋~』

勤務先と家を行き帰りをするだけの日々がとても退屈でいつも死にたいと思っていた。
なにかしらの変化をつけなければ自分がおかしくなりそうで、晩飯だけでも変化をつけようと思った。
少し遠めのスーパーへ歩き、何を食べようか考えた。
一人用のキムチ鍋が目についた。小さい頃大好きだったキムチ鍋。今日はこれにしてみようか。

帰り道ふと夜空を見上げると、とても月が奇麗だった。ずっと見ていると吸い込まれそうな夜空に見とれながらとことこと家路を歩く。
キムチ鍋を袋から開けてスープを入れて直火のコンロで温める。
『こんなにもスープが多くて大丈夫なのかな。』吹きこぼれない様に火加減を調整する。
ずっとキムチ鍋のフツフツを見ていると何故だか気持ちが落ち着いてきた。

5分が経ち、テーブルへキムチ鍋を運ぶ。スープが多いので注意しながら。
目がキムチ鍋に注視してたため、足元に置いてあったピザーラのチラシに気が付かなかった。
僕は足を滑らせてバランスを崩した。
キムチ鍋だけは死守しようと水平を保ったが、タプタプに入ったスープは慣性の法則に勝てなかった。

具は落ちなかったが、スープが白のカーペットにこぼれた。
僕はキムチ鍋をテーブルに置き、すぐにタオルでカーペットを拭く。
これは早く処理しないとシミになると思い、お風呂場から重層をもってきて振りかけた。
水の染みたタオルを上から押え、それを繰り返す。
なかなか落ちないシミは頑固で、何度も何度も重層を振りかけていると何故だか涙が出てきた。

僕はタオルをそのままに、キムチ鍋を食べた。
スープは冷えていて、野菜はシナシナになり、麺は伸びきっていた。
雑な味が引き立っていて、とても不味かった。
それでも腹が減っているので全部食べた。涙は自然と止まっていた。

タオルを上げてみると、薄いピンク色になっていた。
このタオルももういらない。
キムチ鍋の残骸も匂いが凄い。
僕は全てをゴミ袋にまとめ早いゴミ出しをした。

ずっと胸のつっかえが取れない。
見上げると月が綺麗だった。
明日もとりあえず生きてみることにした。

―黒川洸太郎―

ショート小説コンテスト

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