『月~月見ウタ~』緑川凛太郎-ショート小説コンテスト44

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『月~月見ウタ~』

今宵は十五夜。
 俺ら百鬼出版社社員一同は、社長が住むマンションの屋上で月見をすることにした。
「神呪(かみの)さん! お酌!」
 今年の五月に二十歳を迎えたばかりの柳楽(なぎら)くんが、慣れない手つきで俺が持つお猪口に酒を注ぐ。
「神呪さん、日本酒って美味しい?」
「あー、まあまあかな。俺は普段、チューハイばかり飲んでるし」
「チューハイ?」
「うめぇぞ、チューハイ。良い感じに酔える」
 俺はニィッと笑い、社長を指す。
「気になるなら、兄に訊いてみれば?」
「うん。訊いてみる」
 柳楽くんは、テテテと少し離れたところで月見をする社長のところに行った。

 小さく息を吐き、俺は頭上の満月を見る。
「そう言えば、よく月を見ていたよな」
 とうの昔に死んだ両親と月見をしていたことを思い出す。
 あの頃は、両親がいるのは当たり前だと思っていたから。
 いざ、いなくなってしまうと、色々なことに気づく。
「『月を見ながら、星を見て。唄を歌い、詩を詠えば、妖(あやかし)は踊り、宴(うたげ)が始まる』」
 だったかな、と一口日本酒を飲む。
「『今宵は無礼講。妖も人も、月見て笑えや嗤え。酔えば幻想、酔わぬも幻想なり』」
 父が幼い俺を膝に乗せて、母と歌った唄を今でもはっきりと覚えている。
 何だか視界がぼやけるのは、きっと普段は飲まない日本酒が合わなかったからだ。
「『月見て子は何思う? 月見て子は何語る。騙るは大人、語るは子供。人も妖も変わらぬ』」
 さあ、歌えや唄え。
 詠えや吟え。
 酔えば幻想、酔わぬも幻想なり。
 今宵の望月、許してくれるだろう。

 と、唄い終えると、社長が俺の隣に座っていることに気づいた。
「え、いたの?」
 少し驚いて言うと、社長は涙を流しながら「ああ」と頷く。
「唄の始めからね」
「全部聴いてたの?」
「勿論さ。とても懐かしい唄だしね」
「……どれ程昔の唄なんだよ」
「さあね」
 社長は長い白髪のポニーテールを下ろし、風に靡かせる。
「けど、それは神呪の唄だからね。大事になさい」
「うちの唄?」
「そう。それには、君の家のことがあるんだよ」
「……そんなもんだったのか」
「だから、いつも君の両親は唄っていたのかもしれないね」
「社長は、どのくらい知ってるの? 俺のことや、他の社員のこと」
「大体は把握しているよ。そうでないと、君らを支えることなんてできないから」
 社長は涙を拭い、ニコッと笑う。
「大事になさい。たとえ重く、辛いものだとしても。人や妖との思い出は。思い出で人はできていたりもするのだからね」
「……ああ」
「というのが、あの唄に込められていたりするんだよ」
 社長は立ち上がり、俺の頭を撫でて、上着を俺に被せる。
「今くらいだよ。思い出に浸れるのは」
「っ」
 いつの日か、幼馴染みと言っても良いくらいの付き合いのある紀治(としはる)が家族との思い出に浸り、映画館で泣いたのと同じ。俺は、月見で家族との思い出に浸り、涙を流した。
 紀治や、他の人たちと違うのは、俺は許されないことをしたということ。
 両親との最後の約束を破ってしまったこと。
 もしも許してくれたとて、俺が俺を許さない。
 赦せないと言った方が正しいかもしれない。
「父様、母様…っ」
 久しぶりに口に出した言葉は、あの頃の自分と同じで、幼くて、可愛いげなんてないもので。
 それでも言わなければいけないことで。
 でも、言葉にならなくて。
「うわああああああああああああんんん」
 大人げなく泣くしかできなかった。

 泣き終えた後は、いつも通りの俺。
 クズで小銭好きで、人の家に不法侵入するのが好きで。
 昆虫が好きで、ゴキブリを飼育していて、白蟻も愛でていて。
 眼鏡がないと何も見えなくて、でも眼鏡は疲れるからしたくなくて。
 我が儘で、気紛れで。
 隠してはいるけど、猫耳と尻尾があって(驚いたりすると出てしまうけど)
 不器用で、不格好で。
 実家なんて知らないけど、何だかんだで家業である呪術師をしている。
 何と言うこともない、見た目が二十代前半とかの三十代半ばの男だ。
「よし、社長の家にある白蟻を連れて帰るか」
 と言えば、虫嫌いの社長と左坤(さこん)くんは悲鳴を上げる。
「やめろや! 禿!」
 左坤くんは俺を睨み、怒っている表情をする。
「あなたのそういうところ、僕は少し嫌いですっ」
「ははは、何とでも言いな。左坤くん」
 俺は笑って歩き出す。
 過去をその場に置いて。

―緑川凛太郎―

ショート小説コンテスト

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